マインドフルネスと呼吸法の初心者のやり方|わかりやすく説明

心理テクニック

マインドフルネスとは、自分が今どこにいて、何をしているのかを明確に理解する能力のことを指します。それは、周囲の出来事に対して過剰に反応したり、それによって圧倒されることなく、ただ静かに存在するための基本的な人間のスキルです。つまり、自分自身と現在の状況を受け入れ、その瞬間を静かに生きることを指します。

現代社会における感情と身体性の疎外

社会の複雑さに疲れ切り、プレッシャーに追い詰められると、人々の視野はしばしば狭くなり、現実感が薄れてしまいます。この状態では、自分自身や自分の身体に対する意識が向かなくなり、他人からの非言語的なメッセージを理解する能力も失われてしまいます。

特に、子どもの頃からずっと勉強に専念してきて、自然の中で遊んだり他の子どもたちと共有する体験が少なかった人々は、他者と身体性を共有する能力が不足しています。これは、自分の本能、感情、感覚の発達を妨げ、徐々にこれらの能力が衰えていく原因となります。

感情や身体感覚が低下していくと、社会生活をうまく適応し、対人関係を柔軟に保つ能力も失われていきます。その結果、社会不安障害や適応障害になりやすくなります。

さらに、社会で高い位置にいる人々、すなわち成功していると見られている人々ほど、自分自身の振る舞いを厳格にコントロールしようとします。その結果、身体感覚や感情が抑圧され、活気や生き生きとした感覚を失ってしまいます。このような状況は、多くの人が抱える現代社会の問題と言えます。

身体志向アプローチによる自己理解

マインドフルネスや他の身体志向のアプローチは、自分たちの価値観が社会や周囲の世界から強制されることに反対する形で、一種の意識的な再評価の試みです。これは、外部からの影響に左右されることなく、より本質的で身体に根ざした思考と感覚を取り戻そうとする動きです。

このアプローチの中心には、自分の身体が何を感じているか、何が起こっているかを真剣に観察し、理解することがあります。具体的には、自分の身体の中で生じる微細な生理的変化に気づく能力を育てます。これは、注意力を集中することによって可能になります。

さらに、このアプローチは自分が苦手だと感じる状況においても有用です。身体感覚、感情、姿勢、緊張状態、行動、そして思考のパターンといった多角的な観点から自分自身を知ることで、より自己理解を深めることができます。これは、自分の内なる感覚と調和をもたらし、自分自身との関係を改善する助けになります。

これらのことを理解することで、マインドフルネスや身体志向のアプローチは、個々人の内側から自分自身を理解し、結果的には自分自身と世界との関わり方を再定義する手段を提供します。

深呼吸によるリラクゼーション

以下の指示は、リラクゼーションと自己集中を促進するための深呼吸法についての詳細なガイドです。

  1. 静かに座り、体をリラックスさせます。無理なく、自然な姿勢であることが大切です。全身が自然に力が抜けている状態を目指します。
  2. 次に、鼻から息を大きく吸い込むことに集中します。この時、2~4秒程度かけて深く息を吸い込みます。口は軽く閉じておき、舌は上あごにつけるようにします。呼吸をするときには、お腹が自然と膨らむことに注意しましょう。
  3. そこから息を吐く過程に移りますが、この時は一旦少しだけ間を置いてから、5~10秒かけてお腹の空気をゆっくりと吐き出します。この呼吸を吐き出す瞬間に意識を集中させます。
  4. 最後に、息をすべて吐き出した後は、再び少しだけの間を置きます。その後、再び鼻から息を吸い込みます。

ここでポイントとなるのが、呼吸する際に腹部の横(肋骨の部分)に力を入れることです。これにより、深い呼吸が可能になります。そして、この2から4の呼吸パターンを毎日5分から10分間続けることを目指します。

自分自身のペースで深呼吸を行うことが大切です。特に、寝る前や寝起き、またネガティブな感情に囚われている時や、考えすぎて頭が混乱している時などに行うと効果的です。

呼吸法を終えた後は、自分の身体の感覚に注意を向け、その瞬間の感じ方を大切にしましょう。また、頭の中に浮かんだイメージを心に留めて、それを物思いに耽る時間を持つこともオススメします。さらに、意識的に思考を停止し、何も考えずにただ時間を過ごすことも、心身のリラクゼーションに役立ちます。

呼吸法による心身への効果

以下は、深呼吸や意識的な呼吸法がもたらす様々な効果について、より具体的かつ詳細な説明です。

  1. 呼吸は、自分自身で制御できる唯一の内臓活動です。つまり、自分の意志で呼吸を深くすることで、身体の様々な機能が向上します。深い呼吸は、全身の血液循環を活発化させ、各組織や細胞への酸素供給を高めます。これにより、身体全体の健康状態が向上し、免疫力も強化されます。
  2. 意識的な呼吸は、心の働きを活発化させると同時に、心の落ち着きをもたらします。深い呼吸は、心臓の働きを安定させ、ストレスホルモンの分泌を抑えます。これにより、精神的な安定感を得ることができ、感情のコントロールも容易になります。
  3. 深呼吸を行い、特に息を吐く際に意識を向けると、副交感神経の働きが活発化します。副交感神経は、身体の「リラクゼーションモード」をつかさどる神経系で、この神経が優位になると身体と心はリラックス状態に入ります。
  4. ストレスを感じているとき、それは交感神経が優位になっている状態を指します。交感神経は、「戦闘または逃走モード」をつかさどる神経系で、緊張やストレス反応を引き起こします。一方、前述のように、副交感神経が優位になると、体はリラックスし、ストレス感は軽減します。
  5. 意識的な呼吸法により、落ち着いた状態で意識を集中することが容易になります。これは、深い呼吸が生理的なリラクゼーションを促進し、精神的な落ち着きをもたらすためです。この状態では、集中力が高まり、学習効率や仕事のパフォーマンスも向上します。

マインドフルネスがどのようにトラウマの回復を助けるか

マインドフルネスは、仏教の瞑想に起源を持つ心の訓練法で、現代の心理療法、特に認知行動療法においても取り入れられています。これは、自分自身の思考や感情、体の感覚に注意を向け、その瞬間を無判断で受け入れるという手法です。「今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、価値判断をすることなく、ありのままに自分を観る。」という意味合いを持ちます。つまり、マインドフルネスでは自己を客観的に観察し、判断や解釈をせず、そのままの存在を認め受け入れます。

特に、トラウマティックなストレスを経験した人々に対して、マインドフルネスは心、脳、身体の機能の回復に大いに寄与します。トラウマを持つ人々はしばしば、苦痛を避けるために自身の身体感覚を無意識に遮断する傾向があります。このような状態を改善するためには、現在の身体感覚に意識的に注意を向けることが求められます。そして、この注意力は、マインドフルネスの練習によって向上します。

トラウマ治療では、自分自身の五感や内面に起きていることに注目し、それに対して注意を向けることが重要です。そして、その注意を自身の内側へと向ける最も効果的な手法の一つとして、マインドフルネスやヨガが広く認知されています。これらの実践は、自身の感情や体の感覚、現実感に対する認識を深め、トラウマからの回復を助けるのです。

マインドフルネスの技術を身につけることで、自分自身と周囲の環境に存在する絶えず変化する事象に対して、自己調整する能力が育まれます。マインドフルネスの練習を通じて、自分の内面と外界が一体となる経験を繰り返すことで、人は困難な状況や感情を、適応的で健康的な方法で管理する能力を養います。これは、トラウマからの回復にとって重要なスキルであり、心身の健康と平和を保つための道筋を示します。

日常生活の中でのマインドフルネス

マインドフルネスを深めるためには、外を歩いているとき、一歩一歩の動作に意識を向けてみてください。始めに、自分の呼吸に意識を集中します。深呼吸をするときや、息を吹き出すときに感じる胸や腹の動きに注意を払います。次に、手の握り方や足の動きに意識を移します。足が地面に触れる瞬間、靴下や靴が足裏に与える感触、足首や膝、腰の動きなど、身体全体の動きに意識を向けます。足を上げたり下ろしたりする動作、つま先やかかとをどのように使っているかなど、自分の身体の動きの感覚に気づくことが大切です。

また、椅子に座っているときも、マインドフルネスを実践することができます。「私はここにいる」と自分自身に言い聞かせ、呼吸のリズムや手足の感覚、足裏やつま先の感じに意識を向けます。このように身体の感覚へ意識を向けることで、心理的・身体的な変化が起こります。それらの変化に気づき、観察してみてください。

次に、自分の周囲の環境への意識を拡げていくことも重要です。自分が存在する部屋の中に目を向けてみましょう。部屋の中にある物件や家具、飾り付け、窓の外の風景など、視覚で捉えられる全てのものに対する認識を深めるために意識を集中します。さらに耳を澄ませてみてください。部屋の中から聞こえてくる微かな音、遠くから響いてくる街の喧騒、風の音など、聞くことができる全ての音を確認します。そして、呼吸を深く吸い込み、周囲の匂いを嗅いでみましょう。部屋の空気の香り、家具の香り、開いた窓から流れ込む新鮮な空気の香りなど、全ての香りを感じ取ります。

そして、部屋の中にある物件に触れてみてください。その色の鮮やかさや、質感、冷たさや温かさ、形状など、触れたときの感触を全身で感じ取ります。また、部屋の中にある空間そのものの存在にも自分自身を感じ取るよう努力します。部屋の大きさや形状、天井の高さや床の広さ、そしてその空間に自分が存在していることを意識します。

さらに一歩を踏み出して、未知の風景や新しい場所に足を踏み入れてみてください。そこで、五感全てを用いて新たな環境を感じ取ることが求められます。新しい風景の色彩や形状、音、匂い、触れたときの感触など、全ての感覚を開放して新たな環境を体感してみてください。これら全ての過程を通じて、自己と環境とのつながりや存在を深く認識し、自己認識を高めることが可能になります。

食事のときにもマインドフルネスを実践することができます。リンゴやナッツなど、歯ごたえのある食べ物を口に運び、ゆっくりと噛むことで食材のテクスチャーを感じてみましょう。すぐに飲み込むのではなく、口の中で味わう時間を大切にします。舌で感じる各種の味、唾液が出てくる感じ、飲み込む衝動にも注意を払います。飲み込んだ後は、食べ物が喉を通って食道を下り、胃に到達する感覚にまで意識を向けます。これら全ての感覚に気づくことで、食事という日常の行為を通じたマインドフルネスの実践が可能になります。

マインドフルネスを実践していく注意点

マインドフルネスの実践は、自己認識と自己観察の繰り返しです。それは、ある瞬間に起こっている事象に対して意識を向け、次に何が起こったかを詳細に観察することを含みます。例えば、一つの考えが浮かんだ後、その考えがどのように消え去り、新たな考えが生まれるかを静観するのです。

しかしながら、マインドフルネスの実践は容易なものではありません。それは、身体感覚に集中し続けることを要求します。瞑想訓練の基本的なアプローチが理解できていないと、その効果は十分に発揮されません。例えば、初めての瞑想で長時間座ったままで呼吸に意識を集中しようとすると、途中で気が散ってしまうかもしれません。そこで、始めのうちは身体を軽く動かしながら、あるいは自分の手で身体をマッサージしながらマインドフルネスを実践することがおすすめです。

機能不全家庭育ちや毒親に育てられた人々にとって、マインドフルネスや呼吸法法が必ずしも適切でない場合もあります。特に複雑なトラウマを持つ人は、リラックスしようとした瞬間に、過去の辛い記憶や感情が蘇り、心が凍りつくような感覚に陥ることがあります。

外から見ると些細な出来事でも、彼らの中では大きなトリガーとなることがあり、そのためにマインドフルネスや深呼吸の際に、不安や恐怖を強く感じることがあるのです。そのような状況で無理にリラックスしようとすると、心や体がさらに硬直してしまい、逆にストレスが増大することも考えられます。

複雑なトラウマを持つ人々が真のリラクゼーションや安心を得るためには、まず彼らの背景や痛みを深く理解し、共感することが必要です。マインドフルネスや呼吸法を導入する際も、個々の状態やニーズに合わせたアプローチが求められます。トラウマに対する理解や、それに適切に対応する技術を持った専門家の下でのセラピーが、彼らの心の傷を癒す助けとなるでしょう。

マインドフルネスの具体的なステップ

マインドフルネスは精神と肉体の両方に深くフォーカスすることを必要とする手法です。ここでは、その具体的なステップを説明します。

まず第一ステップとして、落ち着いた姿勢をとります。椅子に深く座る、あるいは床に座ることができます。目的は、リラックスし、体が安定することです。次に、注意を自分の呼吸に向けます。呼吸のリズム、深さ、その音、そして肺が広がり、また収縮する感覚に集中します。

第二ステップでは、もし自分が他のことを考えてしまっていることに気づいたら、その認識を穏やかに受け入れ、再び自分の呼吸に注意を戻します。マインドフルネスは、自分の意識がどこにあるのかを常に認識し、それを現在の瞬間に集中させる訓練です。

第三ステップでは、約5分間の注意集中の後、体の中を見渡します。呼吸と同時に、今起きている感覚をそのまま受け入れ、それに注意を払います。

どんな姿勢を取っているか、そして、体の各部位に順番に観察の眼を向けていきます。力を使っているか使っていないかを手足に感じ、それが適切な量の力であるか確認します。心臓から血液が手足の末端まで流れている感覚について感じ、筋肉が緊張しているかを確認します。内臓や皮膚の感覚についても観察します。次に、お腹や骨盤、胸や心臓、喉から気管支、肺に至る呼吸の通り道を見渡します。

さらに、首や肩、背中の緊張を確認し、自分がそれらを自由に動かせるか試します。これは時間をかけてゆっくりと行います。最後に、顔の筋肉に注意を向けます。顎を下げて口を開け閉めしたり、目を左右に動かしたりしながら、脳を中心とした顔のパーツ(目、鼻、耳、口)や表情筋をリラックスさせます。顔周辺の感覚に注意を払い、頭の頂上、首、こめかみ、眉間などをソフトにマッサージしながら、マインドフルネスを深めていきます。

これらの手順は、身体と精神の深い部分に対する認識と理解を高めるためのものです。注意力を自身の内側に向けることで、マインドフルネスは自己理解と自己受容を深め、平和と調和の感覚を促進します。

自然と共に歩む:散歩を通じたマインドフルネス

マインドフルネスの実践方法の一つとして、自然の中での散歩があります。特に春の季節には、自分の五感をフルに活用して、周囲の美しさを体験することができます。

例えば、足元に広がる若草の青さを見つめ、その生命力を感じてみましょう。木々の間からこぼれ落ちる日差しを肌で感じ、新しい季節の訪れを実感します。さらに、樹々がつけたばかりの若葉から発せられる、水分をたっぷりと含んだ新鮮な香りを胸いっぱいに吸い込んでみてください。それはまるで、自然があなたに向けて送る春のメッセージのようです。

散歩しながら、自分の体がどのように反応しているかを観察します。足が地面を踏みしめる感覚、心臓がリズミカルに鼓動する音、深く吸い込んだ空気が肺を満たす瞬間……これらの身体感覚に注意を向け、自分が今、ここに存在しているという現実を確認します。

そして、特に自分が安心感を感じる瞬間や場所に対して敏感になりましょう。それは広大な空を見上げたときかもしれませんし、小鳥の囀りを耳にしたときかもしれません。そういった瞬間を見つけたら、その感覚をしっかりと心に刻むようにしましょう。

これらの自然との対話を繰り返すことで、私たちは日常の悩みから解放され、現在の瞬間により深く焦点を当てることができます。これこそがマインドフルネスの本質であり、自然と共にいることにより、その効果を最大限に引き出すことができます。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-07-23
論考 井上陽平

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