パーソナリティ障害との接し方・職場(境界性・自己愛性)

人格障害

境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害を抱える人々は、多くの場面で心の揺らぎを感じています。彼らの自意識は非常に鋭敏で、その深層には、幼少期のトラウマや育ちの背景、経験した拒絶や失望の記憶が隠されていることが多いです。そのため、他者からの軽微な批判や拒絶が、彼らにとっては極めて大きな傷として映ることがあります。

このような敏感さは、彼ら自身もコントロールが難しく、時には外部の刺激がトリガーとなり、強烈な感情の爆発を引き起こすことがあります。この感情の高まりは、常識的な対応や理解を超えるため、取り巻く人々にも混乱をもたらします。特に職場など、日常の人間関係が密接に絡む環境では、その影響は深刻となり得ます。

境界性や自己愛性パーソナリティ障害

境界性や自己愛性パーソナリティ障害を持つ人々の背後には、しばしば複雑なトラウマの歴史が隠れています。彼らの心の奥深くには、過去の痛みや傷が刻まれ、その影響は現在の彼らの感受性や反応に大きく影響を与えています。このトラウマは、単なる過去の出来事として忘れ去られるものではなく、日常のあらゆる瞬間に、ある種のフィルターとして存在し続けます。

そのため、彼らは日常の出来事や他者との関わりの中で、何気ない一言や出来事を通して再びそのトラウマを思い出し、ショックを受けることが頻繁にあります。この絶え間ないトラウマの再体験は、彼らの感情のコントロールを困難にし、怒りや恐れ、不安などの感情が容易に表面化します。

これらの感情は、通常の状態では一時的であり、解消するための適切な手段や方法を持つことができますが、彼らの場合、その感情は圧倒的に強く、しばしば自身で抑えきれずに外部に発散してしまいます。この連鎖的な感情の波は、身体的・精神的な疲労を蓄積させ、脳や身体の働きにさまざまな負の影響を及ぼすことがあります。

脳の誤作動

トラウマを抱えた人々は、そのトラウマが脳の正常な機能を乱すことが知られています。特に、交感神経や背側迷走神経の働きが過剰となることで、常に「戦うか逃げるか」の状態にあるように感じることがあります。このような状態では、リラックスやリカバリーを促進する副交感神経の活動が低下し、心と体のバランスが乱れがちです。

この結果、感情のコントロールが難しくなり、日常生活や職場内での人間関係に影響を及ぼすことがあります。特に、怒りや悲しみといった強烈な感情が突如として現れ、その場の状況や他者の反応に関係なく衝動的に行動してしまうリスクが高まります。これは、周囲の人々との関係に摩擦を生む原因となり、職場環境や家庭生活にストレスや緊張をもたらす可能性があります。

分裂(スプリッティング)

境界性や自己愛性パーソナリティ障害は、一般的には深い感情的な苦痛や対人関係の困難に関連しています。これらの障害を持つ人々は、過去の経験や環境、または生得的な要因から、自らの存在やアイデンティティ、他者との関係性を安定させるのが難しいことがあります。

この不安定さの背後には、批判や拒絶といった否定的なフィードバックに対する過度な恐れが潜んでいることが多いです。このような心の状態は、彼らが独自の対処戦略や心理的防衛機制を採用する原因となります。例えば、白黒思考や二極化の視点は、彼らにとって、複雑で曖昧な人間関係をシンプルにし、自分を守るための戦略として機能します。しかし、このような思考の極端さは、他者との関係において誤解や偏見を生むリスクがあります。

特に職場環境においては、これらの極端な認識や対人関係の戦略は、チームの結束やコミュニケーションに問題を引き起こす可能性が高まります。他のメンバーは、突如として変わる態度や信頼関係の不安定さに戸惑うことがあるでしょう。

対人関係の操作性

人間関係の中核には、相互の理解や共感が求められます。しかし、一部の人々は自己中心的な視点からのみ物事を捉え、その結果として他者の感情や立場を深く考慮することができない場合があります。彼らは自分の意のままに環境を操ろうと試み、その過程で真実とは異なる情報を拡散することも厭わない。こうした行動の背後には、自分の地位や評価を確保、または向上させるという強い動機が潜んでいます。

根拠のない噂を流すことや、事実を大げさに伝えることで、彼らは瞬時に注意を引きつけるドラマチックな状況を生み出すことができます。しかしこのような行為は、長期的には周囲の人々との信頼関係を損ねる原因となります。特に職場のような閉じられたコミュニティでは、不和や混乱が生じやすく、結果的には組織全体の生産性や士気を低下させる恐れがあります。

このような行動を取る人々が存在する一方で、彼ら自身が抱える不安や過去の経験がその行動の背後にあることも考えられます。人は生まれながらにして他者に影響を与える行動を取るわけではなく、その背景には様々な環境や経験が絡んできます。

競争を好み、ライバルを蹴落とす

境界性や自己愛性パーソナリティ障害を持つ人々は、その核心に深い感受性と不安定な自己評価が存在します。彼らは他者との関係において極めて敏感で、些細なことで拒絶や裏切りを感じることがしばしばあります。このような内面的な不安定さは、外部環境、特に職場での人間関係において顕著に表れることが多い。

彼らは、自己評価を他者からの評価に強く依存しており、そのため自己中心的な態度を取ることが多くなります。彼らにとって、他者の評価や認知は自分の価値や存在意義を確認するための手段となっています。結果として、彼らは協力よりも競争を好む傾向が強まることがあります。

競争的な環境では、彼らは自分を不利な立場に置かれることを避けるための様々な戦略をとります。これには、相手を出し抜く行動や、自らの優位性をアピールすることが含まれます。このような行動の背後には、自分の位置を確かめ、安心感を得るための深い欲求があるのです。しかし、これは彼らの不安や感受性を鎮めるための短期的な解決策であり、長期的な人間関係の構築には逆効果となることがある。そのため、理解や共感、そして適切なサポートが求められることが多いです。

転職を繰り返す

境界性や自己愛性パーソナリティ障害を持つ人々は、感情の波が大きく、瞬時に喜怒哀楽が入れ替わることがあります。このような激しい感情の変動は、彼ら自身の心の内部で起きることであると同時に、周囲との人間関係にも影響を及ぼすことがしばしばです。彼らが感じる喜びや期待、不安や怒りは極端であることが多く、中立的な感情の状態を保つことが難しいのです。

職場というのは、多くの人々が集まり、様々な価値観や考え方が交差する場所です。それだけに、感情のバランスが取りづらい彼らにとっては、ここが特に難しい戦場となることも少なくありません。新しい仕事を始める際の希望や興奮は、時間とともに試練や人間関係の葛藤に変わることがある。それに対して、彼らの感受性が強く反応してしまうと、その結果として不満やストレスが増していくのです。

その背後には、彼らが持つ深い孤独感や認知の歪み、自己評価の不安定さが影響していると言われています。彼らは、自分自身を適切に理解し、他者との関係を築くことが難しいため、繁繁に転職を繰り返すことがあるのです。

パーソナリティ障害との職場での接し方

境界性や自己愛性パーソナリティ障害を持つ人々は、その症状の根底に深い感情の葛藤や心の傷を抱えています。彼らの日常の行動や態度は、この内なる痛みや混乱に直結していることが多く、それが時として対人関係の摩擦や職場での困難を引き起こす要因となることがあります。

彼らが感じる敏感さは、他者からの評価や反応を特に気にする傾向が強いことから来ています。一見、自己中心的な態度の裏には、実は強烈な自己否定や他者に認められたいという切実な願望が潜んでいるのです。また、競争心が強いのも、彼ら自身が自己価値を確認するための手段としているからです。

このような背景を理解することで、彼らとの関わり方や職場でのサポートの方向性が見えてきます。まず、彼らの感情や行動の背後にある心の動きを察知し、それに適切に対応することが求められます。具体的には、彼らの言動を単なる「わがまま」として切り捨てるのではなく、背後の感情やニーズを尊重し、適切な方法で応えてあげることが大切です。

まず、理解と共感は、それぞれの障害の特性や背景に対する深い洞察を基に、彼らの日常的な挑戦や葛藤に共感することから始まります。この理解は単なる知識ではなく、人間としての共感や思いやりに根ざしたものでなければなりません。

次に、はっきりとした境界の設定は、関係性を健康的に保ちながら、互いの独立性や尊重を保つための大切なステップです。この境界を適切に保つことで、感情的な衝突や不適切な依存関係の発生を防ぐことができます。

また、コミュニケーションの強化は、予防策としての役割を果たします。明確でオープンな対話は、予期せぬ誤解や摩擦を未然に防ぐキーとなります。

職場のサポート体制の整備は、職場の環境を整えることで、彼らが長期的に安定して働ける土壌を作り上げることが求められます。チームの中での役割分担や、互いの協力の重要性を再認識するワークショップなどを実施し、全員が互いをサポートし合う環境を構築することで、彼らも自分の役割や存在価値を実感しやすくなります。

そして、プロフェッショナルな支援を求めることは、継続的なサポートや適切な対応のための外部的な視点や専門知識を取り入れることができます。心理学的な専門家のアドバイスやガイダンスにより、職場での適応力や問題解決能力を高めることが期待されます。

総じて、これらの対応策を実践することで、パーソナリティ障害を持つ人々との関係は、ただ単に「適応させる」ことを超え、互いに学び合い、共に成長するような有意義なものとなるでしょう。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-05-06
論考 井上陽平

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