適応障害の人が元気に見える、明るく振る舞うのはなぜか

精神疾患

適応障害の人は、通常は元気そうに見えるように意識して明るく振る舞っているものの、あるきっかけから、張り詰めた糸が一瞬で切れてしまいます。この状態になると、身体も心も動かなくなり、社会生活を送ることが難しくなってしまいます。

文化的背景

日本社会には、周囲の人々に合わせて行動することが良いとされる文化的な背景があります。このような価値観が強いため、人々は自分の感情を抑え、どんなにつらい状況でも、人前では皆と同じように元気に見せるように努め、明るく振る舞うことが求められます。そのため、子どもの頃から、そのような価値観に囚われていくと、自己主張できず、自分に厳しくなる傾向があります。

トラウマの反応から

危険を感じると、私たちは身を守るために戦うか逃げるかの反応を起こします。しかし、恐怖が強すぎると身体が硬直して動けなくなる「凍りつき」の反応が出てしまいます。この状態で脅威から逃げることができず、無力感が強くなると、「虚脱」や「崩れ落ちる」反応が現れます。

適応障害になる人は、脅威から逃れられず、無力感を感じ、凍りつきや虚脱、崩れ落ちる反応が出ています。彼らは、明るく振る舞っていたにもかかわらず、徐々に崩れていき、何かしらが壊れていきます。また、一見元気そうに見えても、内面では何かが破綻していて、不安定な状態に囚われてしまいます。

元気に見えるのはなぜか?

人は、内面に抱える生きづらさを表面には見せずに、強く振る舞うことがあります。心が弱っている時には、気を抜いた瞬間に崩れ落ちそうな感覚を抱くこともあります。このような人は、自分自身を守るために鎧を纏っているような感覚を持っています。鎧は、脆弱に見えるかもしれませんが、実はかなり丈夫で、内面の自分を守り抜いてくれるのです。この鎧のおかげで、人は生活を維持することができますが、周りからはしんどさが伝わらないため、元気そうに見えるかもしれません。

このような鎧のことを、ライヒは「筋肉の鎧」と名付けました。ライヒの筋肉の鎧とは、心的外傷体験(トラウマ)やストレスなどが身体に作用することで、身体が鎧のように強ばってしまう現象のことを指します。ライヒは、人が自然な状態であるべき筋肉の弛緩を失い、筋肉が硬直してしまうことで、身体と心の健康に影響があると考えました。ライヒは、筋肉の鎧が浅い呼吸を引き起こし、身体の感覚や自律神経系に悪影響を与え、身体的な痛みや精神的な不調を引き起こすと考えました。ライヒは、筋肉の鎧を解くことで、身体的なストレスや不調を緩和し、身体と心の健康を改善することができると主張していました。

このように適応障害の人々が、元気に見えたり、明るく振る舞ったりするのは、強くして過ごしていないと、体ごと崩れて消えてしまいそうな不安があるからです。 彼らは、強くないから強く保たないと自分自身が成り立たないと感じているため、自分自身を守るために、前向きな姿勢を保っています。だから、時々笑顔のままでボロボロ泣いています。

過剰適応の傾向が高い

適応障害の人は、社会的な場面で過剰適応することがあります。これは、自分自身を過度にプレッシャーをかけたり、周囲の期待に過剰に反応したりすることによって起こります。例えば、仕事や学校でのプレゼンテーション、社交の場、面接などの場面で、身体の緊張を強めて、過剰に自分をコントロールし、顔に笑顔を貼り付けることで、高いパフォーマンスを発揮します。

一方、プライベートな時間では、スイッチをOFFにして、省エネモードに入ることがあります。これは、過剰適応によって消耗したエネルギーを回復するために、身体的な活動を控えたり、社交的な活動を避けたりすることが原因です。また、過剰適応によって、ストレスに対する適応力が低下し、疲れやすくなったり、身体的な不調を感じたりすることがあります。

適応障害の人は、限界ギリギリの状態で日常生活をこなしているため、社会の中で苦手な人と長期的に関わらなければならなくなると、その場面で過剰なストレスを感じて身体症状が現れ、日常生活に適応できなくなることがあります。

適応障害のリスク要因

適応障害になりやすい人は、幼少期から明るく良い子であり、優しい性格を持っていることがあります。そのため、周りから期待される役割や自分自身の期待によって、理想が高く、自己要求が厳しいことがあります。このような人々は、自己評価を維持するために周囲の人々に合わせて行動し、自分の感情を表現しないことがあります。

適応障害になる人は、ストレスをため込みやすく、自己否定的な考え方を持ちやすい傾向があります。生活全般のストレスや緊張によって身体的・心理的な症状が現れるようになります。しかし、周囲に不安や心配をかけたくない、または周囲の期待に応えたい、自分自身もポジティブな気持ちでいたいという理由から、自分自身を抑えて、無理に元気や明るさを演出することがあります。そのため、表面上は元気そうに見えることがありますが、実際には内面的には苦しみを抱えている場合が多いです。このような心の状態が長期間続くと、適応障害になる可能性があります。

過去にトラウマを負っている

適応障害になりやすい人々は、過去に戦慄の恐怖から逃れることができず、凍りつきや崩れ落ち、虚脱といったトラウマを経験していることがあります。そのため、とても辛い状況が続くと心身が崩壊し、破綻してしまうことがあります。

ストレスに対する適応力が低い

適応障害になりやすい人々は、ストレスに対する適応力が低い場合があります。ストレスに対する適応力が低いと、ストレスを感じるとすぐに身体や心に症状が出てしまい、疲れや痛みがたまりやすくなります。

自己否定的な思考や感情が強い

適応障害になりやすい人々は、自己否定的な思考や感情が強い場合があります。自己否定的な思考や感情は、ストレスをため込みやすく、心身の不調を引き起こすことがあります。

無理な負担を背負い込んでしまう

適応障害になりやすい人々は、無理な負担を背負い込んでしまいがちです。自己要求が高く、完璧主義になりやすいため、自分自身に過度の負荷をかけることがあります。また、周りからの期待に応えようと、無理な仕事や役割を引き受けてしまうこともあります。

このような状態が続くと、うつ病などの深刻な精神的な問題を引き起こす可能性があります。そのため、適応障害の人が無理に明るく振る舞っていることを見抜き、サポートすることが大切です。

適応障害の治し方

適応障害になりやすい人々にとっては、自分自身と向き合い、ストレスをうまくコントロールすることが大切です。ストレスをため込まないように、適度な運動やリラックス法、ライフスタイルの改善、ヨガ、瞑想、トラウマケア、アサーショントレーニングなどを活用することが望ましいです。また、自分自身に無理な負荷をかけず、自分の限界を認めることも大切です。

適応障害の人々が、強く保つためには、自分自身に対して優しくなることが大切です。自分の限界を認め、必要なときには休息をとることが必要です。また、適応障害は、治療の過程で自分自身に向き合い、自分自身に対する受容と向き合い、自己肯定感を高めることで克服することができます。ただし、適応障害は、自己治癒力だけで克服することは難しい場合があります。そのため、専門家の治療を受けることも重要です。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-02-24
論考 井上陽平

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