内なる悪魔はどこから来て、何を守っているのか――「救われてはいけない」という防衛システム

自分の中にいる「悪魔」のような存在。
それは突然生まれたものではありません。

それは、
性暴力・支配・人格侵害といった“逃げ場のない被害”が、終わらないまま続いたとき
生き延びるために形成された、極端に硬化した内的防衛です。

この存在は、次のような世界観を持っています。

  • 同じ苦しみを、一生引き受け続けることこそが正しい
  • 救われることは、過去を裏切ることだ

希望を持たない思想。
幸福を拒絶する倫理。

安らぎ・信頼・回復――
それらはすべて「禁忌」とみなされます。

なぜなら、その人は
“苦しみの身代わり”として生きることを強いられてきたからです。


悪魔は「止まらない地獄」から生まれる

この内なる悪魔が形成される背景には、
いつ命や尊厳を奪われてもおかしくない環境があります。

逃げられない。
助けを求められない。
抵抗すれば、さらにひどい目に遭う。

そうした状況で心が学ぶのは、
「この世界では、苦しみは終わらない」という前提です。

そこで心は、
終わらない地獄に耐えるための構造を、内側につくります。

それが、悪魔です。

この悪魔は強い生命力を持っています。
ただしそれは、

  • 生を楽しむ力ではない
  • 回復へ向かうエネルギーでもない

苦しみの中で、生き延び続けるための力です。

ここには、解離や凍結と同じ生存戦略が働いています。
(関連記事:
👉 https://trauma-free.com/dissociation-defense/


幸福を拒む理由

――なぜ「よくなること」が攻撃になるのか

悪魔は、幸せを「逃げ」だと見なします。
死さえも、「楽すぎる選択肢」として切り捨てます。

理由は、極めて単純です。

  • 自分だけが、耐えさせられてきた
  • 守られなかった
  • 助けられなかった
  • 身代わりにされた
  • 壊されても、放置された

その理不尽さを無効化しないために、
悪魔はこう結論づけます。

苦しみ続けることこそが、正義だ

これは復讐ではありません。
意味を失わないための、歪んだ倫理です。

もし幸せになってしまったら、
あの地獄は「無駄だった」ことになる。

それだけは、耐えられない。

だから悪魔は、
回復・安心・愛着を破壊対象として扱います。


罪と罰の内的システム

――「あなたが悪かった」という構造

この悪魔は、
厳密な内的裁判所を持っています。

  • 過去の罪は、決して許されない
  • 罰を受け続けることが、存在価値
  • 楽になる資格はない

ここで言う「罪」とは、
本来、その人が一切負う必要のなかったものです。

守られなかったこと。
助けられなかったこと。
壊されたこと。

それらが、なぜか
「自分の罪」にすり替えられている。

悪魔は、この誤った前提を
前提のまま維持しようとします

なぜなら、それを手放した瞬間、

あれほどの苦しみは、
ただの不当な暴力だった

という現実に直面してしまうからです。


再被害を“自ら用意する”悪魔性

――なぜ地獄を繰り返そうとするのか。

悪魔は、性暴力を受けてきた人に対して、
さらにレイプされる状況をお膳立てする

これは誇張ではありません。

悪魔は、
**「自分が知っている世界」**に人を引き戻そうとします。

  • 危険な関係
  • 境界のない相手
  • 支配的・侵入的な状況

それらはすべて、
過去と同じ地獄を再現する舞台装置です。

理由はただ一つ。

違う世界で生きると、自分が壊れる

悪魔にとって、
安全で尊重される関係は、未知であり脅威なのです。

(関連記事:
👉 https://trauma-free.com/true-darkness/


他者を遠ざけ、世界を歪める働き

この内的存在は、人間関係を破壊します。

親密さが近づくほど、警報を鳴らす。
信頼が芽生えると、疑念を注入する。

世界は歪んでいる
人間は信用できない
近づけば、必ず裏切られる

この世界観は極端です。
しかし――

かつての環境では、完全に正しかった。

悪魔は、
「もう二度と、同じ目に遭わない」ために、
世界全体を敵として固定します。

(関連記事:
👉 https://trauma-free.com/darkness/


悪魔は「あなた」ではない

――役割を終える準備とは何か

最も重要な点です。

この悪魔は、あなたそのものではありません。

  • 人格ではない
  • 本質でもない
  • 邪悪な衝動でもない

生き延びるために生まれた、防衛の一部です。

回復とは、

  • この存在を消すことでも
  • 打ち負かすことでも
  • 説得することでもありません

必要なのは、次の切り分けです。

これは、今の現実への反応ではない
これは、過去に適応した古い防衛だ

この距離が、ほんの少し取れたとき、
悪魔は初めて役割を終える準備に入ります。

悪魔は、
地獄の中であなたを守りました。

しかし――
今も同じ方法が必要とは限らない。

その理解こそが、
回復の「入り口」です。

STORES 予約 から予約する

【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
新刊『かくれトラウマ - 生きづらさはどこで生まれたのか -』
2026/2/26発売|Amazonで予約受付中
過緊張や生きづらさは、あなたのせいではなく、育った環境や親子関係の中で身についた生存の反応として残ることがあります。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。