自分の中にいる「悪魔」のような存在。
それは突然生まれたものではありません。
それは、
性暴力・支配・人格侵害といった“逃げ場のない被害”が、終わらないまま続いたとき、
生き延びるために形成された、極端に硬化した内的防衛です。
この存在は、次のような世界観を持っています。
- 同じ苦しみを、一生引き受け続けることこそが正しい
- 救われることは、過去を裏切ることだ
希望を持たない思想。
幸福を拒絶する倫理。
安らぎ・信頼・回復――
それらはすべて「禁忌」とみなされます。
なぜなら、その人は
“苦しみの身代わり”として生きることを強いられてきたからです。
悪魔は「止まらない地獄」から生まれる
この内なる悪魔が形成される背景には、
いつ命や尊厳を奪われてもおかしくない環境があります。
逃げられない。
助けを求められない。
抵抗すれば、さらにひどい目に遭う。
そうした状況で心が学ぶのは、
「この世界では、苦しみは終わらない」という前提です。
そこで心は、
終わらない地獄に耐えるための構造を、内側につくります。
それが、悪魔です。
この悪魔は強い生命力を持っています。
ただしそれは、
- 生を楽しむ力ではない
- 回復へ向かうエネルギーでもない
苦しみの中で、生き延び続けるための力です。
ここには、解離や凍結と同じ生存戦略が働いています。
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幸福を拒む理由
――なぜ「よくなること」が攻撃になるのか
悪魔は、幸せを「逃げ」だと見なします。
死さえも、「楽すぎる選択肢」として切り捨てます。
理由は、極めて単純です。
- 自分だけが、耐えさせられてきた
- 守られなかった
- 助けられなかった
- 身代わりにされた
- 壊されても、放置された
その理不尽さを無効化しないために、
悪魔はこう結論づけます。
苦しみ続けることこそが、正義だ
これは復讐ではありません。
意味を失わないための、歪んだ倫理です。
もし幸せになってしまったら、
あの地獄は「無駄だった」ことになる。
それだけは、耐えられない。
だから悪魔は、
回復・安心・愛着を破壊対象として扱います。
罪と罰の内的システム
――「あなたが悪かった」という構造
この悪魔は、
厳密な内的裁判所を持っています。
- 過去の罪は、決して許されない
- 罰を受け続けることが、存在価値
- 楽になる資格はない
ここで言う「罪」とは、
本来、その人が一切負う必要のなかったものです。
守られなかったこと。
助けられなかったこと。
壊されたこと。
それらが、なぜか
「自分の罪」にすり替えられている。
悪魔は、この誤った前提を
前提のまま維持しようとします。
なぜなら、それを手放した瞬間、
あれほどの苦しみは、
ただの不当な暴力だった
という現実に直面してしまうからです。
再被害を“自ら用意する”悪魔性
――なぜ地獄を繰り返そうとするのか。
悪魔は、性暴力を受けてきた人に対して、
さらにレイプされる状況をお膳立てする
これは誇張ではありません。
悪魔は、
**「自分が知っている世界」**に人を引き戻そうとします。
- 危険な関係
- 境界のない相手
- 支配的・侵入的な状況
それらはすべて、
過去と同じ地獄を再現する舞台装置です。
理由はただ一つ。
違う世界で生きると、自分が壊れる
悪魔にとって、
安全で尊重される関係は、未知であり脅威なのです。
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他者を遠ざけ、世界を歪める働き
この内的存在は、人間関係を破壊します。
親密さが近づくほど、警報を鳴らす。
信頼が芽生えると、疑念を注入する。
世界は歪んでいる
人間は信用できない
近づけば、必ず裏切られる
この世界観は極端です。
しかし――
かつての環境では、完全に正しかった。
悪魔は、
「もう二度と、同じ目に遭わない」ために、
世界全体を敵として固定します。
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悪魔は「あなた」ではない
――役割を終える準備とは何か
最も重要な点です。
この悪魔は、あなたそのものではありません。
- 人格ではない
- 本質でもない
- 邪悪な衝動でもない
生き延びるために生まれた、防衛の一部です。
回復とは、
- この存在を消すことでも
- 打ち負かすことでも
- 説得することでもありません
必要なのは、次の切り分けです。
これは、今の現実への反応ではない
これは、過去に適応した古い防衛だ
この距離が、ほんの少し取れたとき、
悪魔は初めて役割を終える準備に入ります。
悪魔は、
地獄の中であなたを守りました。
しかし――
今も同じ方法が必要とは限らない。
その理解こそが、
回復の「入り口」です。
【執筆者 / 監修者】
井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)
【保有資格】
- 公認心理師(国家資格)
- 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)
【臨床経験】
- カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
- 児童養護施設でのボランティア
- 情緒障害児短期治療施設での生活支援
- 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
- 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
- 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
- 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入
【専門領域】
- 複雑性トラウマのメカニズム
- 解離と自律神経・身体反応
- 愛着スタイルと対人パターン
- 慢性ストレスによる脳・心身反応
- トラウマ後のセルフケアと回復過程
- 境界線と心理的支配の構造
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。