複雑なトラウマを経験している人は、現実世界の潜在的な脅威に対する過剰な警戒心から、神経が張りつめている時があります。そのため、緊張感や不安が常に体に漂い、常にエネルギーを使い続けることになります。しかし、その分だけエネルギーが切れてしまうことがあり、過覚醒状態から、解離や離人感、シャットダウンが起きてしまうことがあります。
この状態では、強い眠気に襲われたり、茫然とした状態になることがあります。この現象は自律神経の反応によるもので、体が生命の危機を感じているために、反射的に無意識下で、背側迷走神経が過剰に働いてしまいます。背側迷走神経が過剰になっていると、呼吸は浅くなり、血圧は低くなり、筋肉は極度に弛緩し、不動的防衛機能が働いていることになります。このように、複雑なトラウマが引き起こす生理的反応は、自律神経の過剰反応によって生じることが多いです。
解離とは
解離は、知覚される脅威から自己を保護する役割を果たしています。例えば、他人の視線が恐怖を感じさせる場合や、現実世界のさまざまな刺激が強すぎる場合に、透明なカプセルに包まれ、宇宙意識と繋がっているかのような感覚に陥ります。このカプセルの中にいる間は、外部からの刺激が遮断され、安心感を得ることができます。
痛みの身体に対する解離の眠気
複雑なトラウマを抱えている人は、深淵のように暗く、悲鳴を上げるような記憶を納めた特別な引き出しが心の中に存在します。その引き出しの存在は、ぼんやりとした認識の中にあるだけで、具体的な内容に触れようとすると、警告とも取れる強烈な眠気が自我を襲います。それはまるで、あまりにも痛みを伴う記憶を見つめることの代償、避けて通るべき禁断の閾値を示しているかのようです。
その引き出しを開けようとすると、眠気が視界を霞ませ、逃げ道を探し始めます。しかし、誠実さと好奇心が引き出しに手を伸ばさせると、今度は頭が割れるような痛みが襲ってきます。それはまるで、思考を裂くような痛みで、認識の縁を越えた罰のように感じます。さらに進むと、その痛みは全体の頭蓋骨に広がり、脈打つように響き始めます。体が不安定に揺れ、視界が揺らぎ、あたかも地盤が崩れるかのような危うさを感じます。
最終的に、体はこの過酷な状態に耐えられず、自我を横にして深い眠りへと引き込むのです。眠りから覚めたとき、頭はまだ重く、まるで鉛のように感じます。しかし、その重さの中にはある種のクリアな感覚も漂っています。それはまるで、嵐の後の空気のような清々しさを伴う感覚です。
あちら側の世界
解離やシャットダウンの強い眠気の先にある「あちら側の世界」とは、窮地にある人を苦しみや辛さから解放するための脳が自ら生み出す幻想的な世界です。その世界に入ることで、極楽浄土のように感じられ、安息の場所となることもあります。また、優しくゆっくり眠りにつかせ、意識を飛ばしてくれて、現実の辛さから逃げることができると感じることができます。
しかし、その世界に入り過ぎると、現実世界に戻ることができなくなる恐れがあります。そのため、あちら側の世界に入ることは、一種の脱力状態であり、生きるための苦しみから解放されるような気持ちになることがある一方で、脱力感が強すぎて現実世界に戻りたくなくなることもあるようです。霧のような優しい雰囲気は、現実から逃れることを手助けするために、脳が自ら創り上げたものと考えられます。
解離による生体保護の力
解離による生体保護の力は、辛い、不安、怖い、怒り、不満などのネガティブな感情やトラウマの記憶、ショック状態、疲労、痛みなどが原因となって発生します。この状況に陥った時、誰にも助けを求めることができず、同時に助けを求めなければならないと感じた場合、解離による保護の力が発揮されます。この力は、ゆっくりと戦う力を抜き取り、自分を保護するために働きます。
解離の生体を保護する力は、トラウマを経験し、苦しんでいる人に対し、「もうがんばらなくていいよ。無力でもいいよ。泣いてもいいよ。何も考えなくてもいいよ」とやさしく諭してくれます。そして、もう耐えられなくなった人が、生命力を失いながらも無垢な状態にリセットされる中で、恐怖と安心感に包まれ、涙があふれ出し、深い眠りに陥っていきます。
解離の生体を保護する力は、身体が動かせずに鈍重な感覚が残り、まぶたも重く開かない状態にあるものの、あちら側の世界では身体が無重力のように軽く感じられるかもしれません。この状態では、現実世界に戻らずに、頑張ることが難しくなった私に対して、このまま楽にいてもいいという安心感を与えてくれます。
複雑なトラウマを経験した人が疲れ切った状態で、優しく誘導されて頑張らなくてもいい世界に入り込むと、まるで極楽浄土のように感じることがあります。最初は安心感に包まれて心地よさを感じますが、同時に前向きに頑張ろうとする自分もいて、現実世界に戻ろうとします。現実世界に戻る意識が強まると、ポンと夢から覚めたように現実世界に戻されますが、夢心地の世界から現実世界に戻ると再び現実に向き合わなければならず、身体はすぐに硬直状態に戻るかもしれません。
まとめ
まとめると、複雑なトラウマを経験した人は、現実世界の刺激に対して敏感で、度々眠気や崩れ落ちと戦わなければならないかもしれません。そして、辛い時ほど、見えないものや聞こえないものに誘われるかのような囁きに引き寄せられます。徐々にぼんやりとしてきて、眠気が襲ってきて、身体はぐらつき、足元から崩れ落ちるような感覚の中で、夢のようなあちら側の世界に行くことができます。これらの反応は、脳が自分自身のために脅威から身を守ろうとして生じる現象です。
トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2022-12-22
論考 井上陽平

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