一部の人々は、胎児期から幼少期のトラウマにより神経系が敏感になり、感情を強く感じやすくなります。これによりトラウマや困難な状況による傷が深まり、自己非難や自己否定のスパイラルに陥ります。彼らは自己防衛のメカニズムを作り出し、自己を守るために現実から離れ、心の内なる世界に身を委ねて生きることを選択します。
この状態を「解離」といいます。解離は一見すると逃避の行為に見えますが、それは個人の人格全体と関わり、自己を現実の攻撃や困難な状況から守る心理的な防衛機制として機能します。解離により、個人は自己を保護し、自分の心理的な健康を維持しようとするのです。
幼少期のトラウマ:敏感な神経系と自己否定のスパイラル
人々の中には、母親のお腹の中いる胎児期から出産、そして幼少期のトラウマを経験し、結果として神経系が極度に敏感になった者がいます。そうしたトラウマや発達障害を持つ人々は、喜びや悲しみといった感情や感覚を非常に強く感じます。さらに彼らは敏感であるために傷つきやすく、虐待やいじめのような困難な状況に直面すると、その傷はさらに深まり、回復が難しくなります。
彼らは親に対して話を聞いてほしい、辛くて助けてほしいと望んできましたが、その願いはなかなか叶いませんでした。自分が親に迷惑をかけたくない、また親を悲しませたくないという思いから、彼らは親を喜ばせるための行動を取り続けました。
しかしながら、親から無理な怒りを向けられるたびに、なぜ自分が怒られているのかがわからず、状況はさらに厳しくなりました。彼ら自身が怒りを表現すると、他人を傷つける可能性があるとか、状況をさらに悪化させるという恐れから、彼らは黙って耐えるしかありませんでした。そして、自分が怒られる理由は自分のせいだと自己非難し、自己否定のスパイラルに陥りました。
そういった経験が積み重なった結果、彼らの生活は複雑で理解しにくくなりました。自分の心や体の痛みを他人にうまく伝えられず、彼らは自分が限界に達するまで苦しむことになります。
凍りついた心:トラウマを抱え、自己防衛への道
複雑なトラウマを背負い、追いつめられているのに、誰からも理解されず、求める助けも得られませんでした。自己批判が深まり、彼らは理解できない世界に怯え、閉じこもり、自分を消極的にしました。そして、自身が目立たぬように、ひっそりとその場に存在することを選びました。人々の視線にさらされることは、何もかもを強く感じすぎ、胸の痛みや息苦しさを引き起こしました。それらの感情は、彼らにとって過度な苦痛となり、それが通り過ぎるのを待つ以外に選択肢はありませんでした。
厳しい現実を生き抜くことは困難で、絶えず変化する世界に彼らは怯えていました。常に緊張状態で、体は固まり、周りの人々の生活ペースについていくことが難しくなりました。まるで音のない世界に一人取り残されたようでした。
子供の頃、彼らは自分が抑圧されていることすら感じられないほど、身体が凍りついたような無感覚な状態になりました。感情や感覚が麻痺し、日々の痛みによる絶望感は深まり、何もする気力を失いました。まるで体が宙に浮いているか、自分自身に閉じ込められて動けないように感じました。
心を放棄した彼らの世界は、すべてが不安定で、彼ら自身も凍りついたままの存在となり、その状態が永遠に続くかのようでした。心の最深部には、破壊された子供の自分が閉じ込められ、自己表現ができなくなりました。
そして、新しい自分が出現しました。それは過去の彼らとは全く異なる存在で、彼ら自身の一部でありながらも全く異なる何かでした。それは彼らが無意識に生み出した自己防衛のメカニズムで、現実の痛みから自分を守るための最後の手段でした。
心の深淵:子ども時代のトラウマと孤独な闘い
複雑なトラウマと解離症状を抱えている人は、幼少期から危機的な状況と向き合い、厳しい道のりを経験しています。彼らは自由に生きたいという願いと、これ以上傷つかないための自衛のために、自己をまるで繭のように守ろうとします。しかしながら、それでも攻撃者から逃れることができず、体は硬くなり、力が出なくなり、彼らはまるで凍りついたような状態に陥ります。
トラウマが引き起こす心の混乱と痛みが続けば、彼らは現在の瞬間を実感することができず、過去と未来の間で揺れ動くことになります。前進しようとする度に失敗し、身体と頭の動きが遅くなり、人生の混乱から抜け出すことができなくなります。
子供たちはさまざまな経験がトラウマ化し、混乱したときには、自己の本質が心の奥深くの檻に閉じ込められ、自分の意志が通じなくなります。そして、「このままでは自分が壊れてしまう」と感じると、誰にも見つけられない場所を見つけて、心の奥底に引きこもり、そこから一歩も出てこなくなります。
その心の奥底、暗闇の中で彼らはひとり、座り込み、孤独と闇を感じながら、死に向かって進むような感覚を抱きます。しかし、その深い暗闇の中で、一日のほんの数分間だけ地上からの光が届く瞬間があります。
解離:孤独な心の世界から現実を守る機制
心の傷が深い子供たちは、自分の感情をうまく表現することができず、自分の心の中の変化を理解することもできません。他の人々から離れて、完全に孤独な世界にいるように感じます。
このような状態は、まるで自分だけの夢の世界に生きているかのようです。その世界には彼ら自身だけが存在し、孤独で寂しい感情がある一方で、自分だけの安全な場所となり得ます。そこでは、懐かしい風景が蘇ってきて、自分が過去に知っていた人々が時折現れ、また消えていきます。彼らは過去の出来事を思い出し、「そうだ、あの時にはこれがあった」と自分自身を思い出します。
解離症状のある人々、特に幼少期にトラウマを経験した人々は、身体全体が痛んだり、生きているという実感がまったくなかったりします。彼らにとって、現実の世界はとても辛く、白昼夢の中に逃げ込むことでその苦しみから逃れようとします。つまり、彼らは現実の苦しみから遠ざかり、自分だけの空想の世界に身を委ねて生きていくのです。
その一方で、解離という現象は、一見するとただ逃避の行為に見えるかもしれませんが、その深層には戦略的な自己防衛の側面が存在します。ここでいう解離とは、自分自身から距離を取り、独立した観察者のように行動や感情を見つめる心理的な状態を指します。
この解離は、個人の全体的な人格と繋がっています。つまり、自分の感情や行動、記憶などを分離させることによって、個体は自己を保護し、自分の心理的な健康を維持しようとします。それはまるで心の防護壁のようなもので、この壁により私たちは現実の攻撃や困難な状況から自己を遠ざけることができます。
具体的には、つらい体験や苦痛を伴う状況が起きたとき、解離によって自己はこれらの状況から一時的に自分を隔離します。これにより、一時的には心の傷を最小限に抑えることができます。つまり、解離は逃避だけでなく、自己の保護・防衛の戦略として機能しているのです。
このように、解離は単なる逃避行為とは異なり、自己を現実の攻撃や困難な状況から守るための心理的な防衛機制であり、それは個人の全体的な人格と密接に関わっているということを理解することは重要です。
当相談室では、子供のトラウマや解離に関するカウンセリングや心理療法を希望される方に対し、ご予約いただけるようになっております。予約は以下のボタンからお進みいただけます。

トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-07-16
論考 井上陽平
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