漠然とした不安はなぜ起きるのか?心の病気とトラウマの関連

心の病気

トラウマとは、その本質的な要素を理解するためには、人間の基本的な反応パターンについて理解する必要があります。具体的には、私たちが直接的な脅威や危険に直面すると、私たちの身体は自動的に警戒し、「闘争・逃走反応」を引き起こします。これは、危険から身を守るために、即座に反抗するか、あるいは逃げ出すための身体の反応です。

闘争・逃走反応と日常生活における警戒心

深刻なトラウマを経験すると、その影響は単なる心理的なものだけでなく、身体的なレベルでも現れます。これらの人々の体内では「闘争・逃走反応」という生物学的な現象が引き起こされ、これがトラウマの情緒的な記憶と一体化してしまいます。この反応は、人間の体が危険や脅威を察知すると自動的に発生するもので、基本的には生存のための反射的な反応です。

トラウマを経験した人々は、身体が感じる危険や恐怖が破壊的な結果を招きかねないと感じ、その結果、脳は常に周囲の環境を警戒し、脅威となる可能性のある対象を特定しようと働きます。これは、本能的な防衛メカニズムの一部として、脳が可能な危険を前もって認識し、それに対応するための策を練ることを意味します。

しかし、この反応は日常生活においても突然引き起こされ、そこからくる不安感は落ち着かない状態を引き起こします。突如として現れる不安や緊張感から、彼らは周囲を急に見渡すようになります。しかし、明確な脅威が存在しない場合でも、これらの感情は彼らを支配し、漠然とした不安を感じさせます。つまり、その場に明らかな危険がなくても、彼らの心と体はまるで危険が迫っているかのように反応するのです。

トラウマの影響:心と身体のダイナミクス

トラウマを抱える人々の体験は、しばしば身体と心が一緒に連動しないという複雑さを伴います。彼らは、漠然とした不安感を抱えつつ、身体内に未解消の闘争・逃走反応のエネルギーを保持しています。そして、何らかの刺激がそのエネルギーを引き金にすると、すぐに落ち着かなくなることがあります。

日常生活では、現実的な危険が存在しない状況でも、体は自発的に闘争・逃走反応を起こすことがあります。これは、心がリラックスしようと試みているときでも、身体はまるで独自の意志を持つかのように、自己防衛の反応を始動します。この結果、たとえソファで落ち着いて過ごそうとしても、周囲の状況が気になり、静かに座っていられなくなるのです。

例えば、自宅という安全な場所であると自分が認識していても、周りの微細な気配や物音に敏感になり、他人の動きが気になってしまいます。これが原因で、何かを行動に移さなければならないという不安感や焦燥感に駆られることがあります。しかし、身体が持続的な動きに対応できないとき、身体は凍りついてしまうような感覚に陥ることもあるのです。

凍りついた反応:複雑なトラウマが身体と感情に及ぼす影響

複雑なトラウマを経験した人々が、あまりにも大きい脅威が襲ってくる、または恐怖が我々を圧倒すると、この反応は逆に阻害され、身体は凍りつくか、または完全に動けなくなることがあります。これは、身体が危険を認識し、闘争または逃走を試みているにも関わらず、それが不可能または失敗すると、私たちの身体と心はその瞬間をトラウマとして記憶します。

さらに、予期せぬ状況で強烈なトラウマを経験した人々は、闘争・逃走反応が途中で中断され、体内に膨大なエネルギーが滞ることがあります。これは、人間の体が自然に防衛反応を起こそうとするエネルギーが適切に放出されず、内部に取り残されることを指します。このエネルギーの滞留が、後に不安、緊張、過敏さなどの形で現れ、トラウマの持続的な影響を生み出す原因となります。

この凍りついた状態では、身体の内側からモヤモヤとした、またはザワザワとした感覚が湧き上がることがあります。この感覚は不安や焦り、恐怖といった強烈な感情を引き起こし、彼らが体験するトラウマの影響をさらに強調します。これらの感覚は、トラウマを抱える人々が日々直面する困難の一部を描き出しています。

過敏反応と自律神経の乱れから見る心身の緊張と不安

トラウマを経験した人々は、具体的な脅威が特定できない状況でも、神経が過度に刺激されてしまうことが起きます。これは、一種の過敏反応で、その結果、彼らは過度の緊張状態になることが多く、その結果として不快な感覚や感情、動悸、発汗、貧血、疲労感などの症状が出てきます。これは、自身の身体がまるで常に危険にさらされているかのような反応を示すためです。

また、彼らの自律神経系もまた調整が乱れており、これはトラウマの深い影響が反映されています。自律神経系は通常、私たちの体調を一定に保つ役割を果たしていますが、これが乱れると、過度に覚醒した状態と低下した覚醒状態の間を不規則に行き来するようになり、体調不良を引き起こします。

さらに、彼らは自分自身が安全な場所でリラックスしている場合でも、内臓、筋肉、脳を結ぶ神経系がなんらかの危険を察知すると、身体は即座に闘争・逃走反応を引き起こします。これにより、彼らは焦燥感やイライラを感じ、自身が制御できない感情の波に飲み込まれてしまいます。

そして、彼らは何もしないでじっとしているだけでも、その場にいることが耐えられなくなることもあります。落ち着いて存在することすら困難になり、絶えず身動きを取りたくなります。これは一種の多動性や衝動性で、極端な場合には混乱し、理性を失い、自己制御ができなくなるまでエスカレートします。これはトラウマがもたらす、心と身体に対する慢性的なストレスが原因です。

トラウマとの闘い:身体と心の連鎖反応

人間の身体は驚くほど複雑なシステムであり、過去の体験やトラウマを深く閉じ込めてしまうことがあります。これらのトラウマは、身体の奥深くに保存されており、思わぬ刺激が触れると、ときに身体の反応を引き起こします。それは動悸、じっとしていられない感じ、手の震え、胸の窮屈さ、息苦しさ、集中力の低下、イライラ感など、さまざまな形で現れます。

この身体の反応が起こると、心はそれを不安と解釈します。あたかも脅威が近づいてきているかのように感じるのです。たとえそれが実際には無害な刺激であっても、トラウマが引き起こす身体の反応は我々の心に混乱をもたらし、そして反射的にその場から逃げ出したいという衝動を生むのです。

脅威が去ると、一時的には安心感が戻ってきます。自分の身体と心が、再び自分自身のものであると感じ、深い呼吸をすることができます。しかし、この平穏はなかなか長続きしません。なぜなら、トラウマが深く根差している人々にとって、新たな刺激や状況は、再び不安を引き起こすトリガーとなるからです。

つまり、トラウマを持つ人々は、常に二重の戦いを強いられています。一つは現在の脅威から逃れること、そしてもう一つは過去の脅威から逃れること。これは疲れる戦いであり、しかし自分自身と向き合うことで、少しずつでも前進し続けることが重要です。

トラウマの理解を通じた自己回復の道

トラウマとは、人間の基本的な反応パターンである「闘争・逃走反応」に関わる心身のダイナミクスを理解することで、その本質を探るキーとなります。人は危険や脅威に直面すると、この反応を起こし、生存のために戦ったり、逃げたりします。しかし、トラウマを経験すると、この反応が過剰になったり、不適切な状況で生じることがあり、日常生活での緊張や過度な警戒心として現れます。こうした反応は、身体の中に滞ったエネルギーとして残り、不安や緊張、過敏さを引き起こすことがあります。さらに、これらの症状はトラウマの深い影響を反映しており、身体と心のバランスが乱れることが多いです。

複雑なトラウマを経験した人は、内部に蓄積されたエネルギーを持ち続けており、突如としての不安や緊張感に悩まされることがあります。日常生活での小さな刺激や音、場面などに過敏に反応することが多く、この反応は身体が持つ自然な防衛メカニズムとして働いています。しかし、明確な脅威がない状況でも、この反応は活性化することがあり、その結果として、過度な緊張や不安感を引き起こします。

実際には危険がない場面でも、トラウマを持つ人々の身体と心は脅威を感じ取り、警戒反応を示します。これは、過去のトラウマが引き起こす反応としての身体の記憶が、新たな状況や刺激に反応しているためです。このような心身の状態は、日常生活を大変にするだけでなく、人々の社会的な関係や仕事、日常生活にも影響を及ぼす可能性があります。

トラウマとの向き合い方や乗り越えるためのプロセスは、内省、理解、行動の三つのステージから成り立ちます。このプロセスは一貫して自己理解と自己受容を重視し、時には専門家のサポートを必要とすることもあります。

  1. 内省:
    • 自己認識:まずは、自分の中にある不安や感情、身体の反応を認識することから始めます。日記をつける、瞑想するなどして、自身の感じていることを客観的に捉えるよう努力します。
    • 原因の探求:トラウマの源を明らかにするために、過去の出来事や経験を思い返すことが有効です。何がトラウマを引き起こしたのか、それによってどのような影響が現れているのかを理解することで、不安の理由やその背景を明らかにすることができます。
  2. 理解:
    • 感情の受容:自分の感じていること、トラウマの影響を受けていることを否定せず、受け入れることが大切です。自分を責めたり、感情を抑え込むのではなく、それらを認め、受け入れることで、自分自身への理解を深めることができます。
    • サポートの求め:トラウマの影響は深刻な場合が多いため、専門家やカウンセラー、セラピストのサポートを受けることを考えると良いでしょう。彼らの専門的な知識や経験を活用して、自己理解を進め、不安を和らげる方法を学ぶことができます。
  3. 行動:
    • 新しいコーピングスキルの獲得:リラクゼーション技法、マインドフルネス、呼吸法など、不安や緊張を和らげるためのスキルを学ぶことが有効です。これらの技法を日常生活に取り入れることで、不安を和らげることができます。
    • 日常生活の見直し:日常生活の中で、トラウマの影響を引き起こすトリガーや刺激を特定し、それらを避ける工夫をすることも考慮に入れると良いでしょう。また、健康的な生活習慣を築くことも、心身の安定に寄与します。
    • 社会的サポートの活用:家族や友人、サポートグループなど、信頼できる人々との関わりを大切にすることで、不安を共有し、一緒に克服する力を得ることができます。

最後に、トラウマからの回復は一歩ずつのプロセスであり、焦らず、自分自身を大切にしながら進むことが大切です。自分のペースで進み、必要に応じて専門家の助けを求めることで、持続的な回復と成長を目指すことができるでしょう。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-07-21
論考 井上陽平

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