「カウンセリング」と聞くと、
何か正しい答えを専門家から教えてもらう場所
というイメージを持たれる方も少なくありません。
けれど、心理相談室やクリニックで行われているカウンセリングは、
もう少しちがう性質のものです。
カウンセリングは、
- いまの悩みや症状の背景で、心の中で何が起きているのか
- その苦しさが、これまでの経験や価値観とどう結びついているのか
を、カウンセラーと一緒にたどっていく対話のプロセスです。
カウンセラーはアドバイスを押しつけるのではなく、
- あなたの話を丁寧に聴き
- 感情や思考、行動のパターンを一緒に整理し
- 「自分は本当はどう生きたいのか」「何を大切にしたいのか」を探り直す
ための安全な場をつくる役割を担います。
問題を“代わりに”解決してもらうのではなく、
「自分で向き合える力」「自分の人生を選びなおす力」を育てていく時間
それが、本来のカウンセリングに近いイメージです。
👉 関連:
心が限界に近づいたときに起きる反応
https://trauma-free.com/complaint/
こんなときはカウンセリングを考えてよいタイミングです
「これくらいで相談していいのかな……」
「もっと深刻な人が行くところでは?」
そうためらいながら、こうしてカウンセリングの情報を探している時点で、
心はすでにかなり頑張っていることが多いです。
たとえば、こんな状態が続いていませんか。
- 同じことを何度も考えてしまい、頭の中で堂々巡りが止まらない
- 身近な人には話せない・話しても分かってもらえない感じが強い
- 何がつらいのかうまく説明できないが、とにかくしんどい
- 本やSNSの情報を集めても、自分の場合にどう当てはめていいか分からない
- 「このまま一人で抱えていて大丈夫かな」という不安が消えない
こうした状態は、必ずしも「病気」というわけではありませんが、
心が、自分だけの力では抱えきれなくなっているサイン
だと言えます。
もう少し具体的に言うと、カウンセリングにはこんな方たちがよく来られます。
- 進路・キャリア・人生の方向性が分からず、将来が不安
- 夫婦・恋愛・親子・職場など、身近な人間関係がつらい
- 自己肯定感が低く、「自分なんて」と思ってしまう
- 過去の虐待・いじめ・事故・性暴力など、トラウマの影響に悩んでいる
- 不安・抑うつ・パニック・解離症状などで日常生活に支障が出ている
カウンセリングは、「もう完全に限界になってから」だけでなく、
「そろそろ一人で考えるのは難しいかも」
「誰かと一緒に、自分のことを整理したい」
と感じ始めたタイミングで利用していただいて大丈夫です。
カウンセリング・心理療法・医療(精神科)の違い
似た言葉が多くて分かりにくいので、ここで一度整理しておきます。
カウンセリング(心理カウンセリング)
- 心の悩みや人間関係の問題、生きづらさなどについて話し合いながら、
自己理解を深め、より自分らしい生き方を探すプロセス。 - 対話・関係性を通して、心の負担を軽くし、感情を整理していきます。
- 病名がついているかどうかに関わらず利用できます。
心理療法(精神療法)
広い意味ではカウンセリングの一種ですが、そのなかでも、
- 認知行動療法
- トラウマ療法(EMDR・イメージ療法など)
- アートセラピー、スキーマ療法…
👉 トラウマを背景にした心の反応について
https://trauma-free.com/trauma/ability/
など、一定の理論や技法に基づいて行うアプローチを指すことが多いです。
医療(精神科・心療内科)
- うつ病・不安障害・解離性障害など、診断名にもとづき治療する領域。
- 薬物療法・休職の診断書・検査など、医学的な支援が中心です。
実際の現場では、
「医療(薬)+カウンセリング(心理療法)」
を併用しているケースが少なくありません。
どれか一つに決めないといけないわけではなく、
症状や生活状況に応じて組み合わせていくことが現実的です。
カウンセリングで大切にされる「場」としての条件
カール・ロジャースという心理学者は、
人が自然に回復・成長していくために、
カウンセラー側に必要な3つの条件を示しました。
1.無条件の肯定的配慮
- どんな話をしても、「こんなことを考える自分はダメだ」と評価されない。
- うまく話せなくても、矛盾していても、そのまま受け止めてもらえる。
2.共感的理解
- 「こう考えるのが正しいですよ」と教える前に、
「もし自分がこの人の立場だったらどう感じるだろう」と想像しながら聴く姿勢。 - ただ「分かりますよ」と言うのではなく、
あなたの言葉の背景にある気持ちを、丁寧になぞっていきます。
3.自己一致
- カウンセラー自身が、感情や考えを必要な範囲で自覚し、偽らないこと。
- 「専門家の仮面」だけではなく、ひとりの人間としてそこにいること。
ロジャースは、人にはもともと
暗い地下室のわずかな光に向かって伸びるジャガイモの芽のような「自己実現の力」
が備わっていると考えました。
カウンセリングの役割は、
その芽を無理やり引っ張ることではなく、
- 安心して自分を出せる空間
- 否定されない対話
- 自分の感覚を取り戻せる時間
を整えることで、その力が自然に働きやすくなるよう支えることにあります。
トラウマを抱えた人の心の世界と、その扱い方
幼少期に虐待や暴力、過度な批判、見捨てられ体験など、
耐えがたい出来事をくり返し経験した人の心の中には、
外からは見えにくい、複雑な世界がつくられます。
あるトラウマ理論では、そうした人の内面に
- 現実の痛みから身を守るための、豊かな空想世界
- 変化や他者との親密さを、強く拒む“内なる守護と攻撃のシステム”
が形づくられると考えます。
それはもともと、
圧倒的な現実から、子どもの自分を生き延びさせるために必要だった仕組み
です。しかし、その仕組みが大人になってからも強く働き続けると、
- 人を信じたいのに、どうしても警戒してしまう
- 幸せになりたいのに、いざ近づくと自分で壊してしまう
- 現実の世界より、空想や頭の中の会話の方が安心で、戻って来られない
- 誰にも頼れず、「自分だけで何とかしなければ」と思い詰めてしまう
といった形で、今の生活や人間関係に影響してきます。
特に、感受性や知性の高い人ほど、幼少期のトラウマ体験によって
- 早くから「自分で自分を守る」スイッチが入りすぎてしまう
- 両親とのつながりを心の中で切り、空想の世界だけで踏ん張る
- 外から見ると冷静・強い・少し横柄にも見えるが、内側では強い不安と孤独を抱えている
という形になりやすいと言われています。
こうした人にとって、他者に頼ることやカウンセリングを受けること自体が、
とてもハードルの高い行為です。
信頼し始めた途端に、心のどこかがブレーキをかけてしまうこともあります。
👉 関連:
幸せになることが怖くなる心理
https://trauma-free.com/afraid-happiness/
トラウマを扱うカウンセリングで大事なこと
トラウマのカウンセリングでは、これらの防衛を
「悪いもの」「早く捨てるべき癖」
として扱うのではなく、
- 当時の自分を守るために、どんな役割を果たしてきたのか
- 今の人生にとってもまだ必要なのか、それとも少し役目をゆるめてもいいのか
を、あなたのペースで一緒に確かめていきます。
その際、ことばのやりとりだけでなく、
- 体がこわばる・息が詰まる・涙が出ない/止まらない
- 意識が遠のく・ぼんやりする・急に何も感じなくなる
といった身体の反応や解離症状にも注意を向けながら、
「心のスピード」と「身体のスピード」の両方を尊重して進めていきます。
👉 解離や心の切断反応について
https://trauma-free.com/dis/
カウンセリングを受ける前にできる、ささやかな準備
カウンセリングは、準備ゼロで来ていただいても構いません。
とはいえ、
「何から話したらいいんだろう?」
という不安が強い方は、少しだけ“下ごしらえ”をしておくと、初回が楽になります。
1.ざっくりしたプロフィールを書き出しておく
- 年齢
- 仕事(または学校)
- 家族構成
- これまでに受けたことのある治療や相談(精神科・心療内科・カウンセリングなど)
を、メモ程度にまとめておくと、話し始めやすくなります。
2.「なぜ今、相談しようと思ったのか」を一文にしてみる
- 「最近、朝起きるのがつらくなってきた」
- 「同じことで何年も悩み続けている気がして」
- 「過去のことを思い出すと、体が止まってしまうから」
など、完璧でなくてかまいません。
自分なりの“きっかけの一文”があると、初回の入口が少し楽になります。
3.これまで試してきた対処法を振り返る
- 休職・転職・引っ越し
- 本やSNS、自己啓発
- 運動・マインドフルネス・趣味
- 薬・サプリメント など
「何が少し助けになったか」「何がしんどさを増やしたか」を振り返ることで、
カウンセラーも支援のヒントを得やすくなります。
4.聞いておきたいことをメモしておく
- カウンセリングの進め方・頻度・期間の目安
- 守秘義務について
- 医療との併用はできるか
- オンライン対応の有無 など
気になることをメモしておくと、「聞き忘れた」という不安が減ります。
5.お金と時間のイメージを持っておく
カウンセリングは保険適用外(自費)であることが多く、
月にどれくらいの費用と時間をかけられそうかを、ざっくり考えておくと安心です。
初回カウンセリングでは何を話すのか
初回のカウンセリングは、問題をその場で解決する時間というより、
あなたのこれまでと、今と、これからを
一緒に「地図」にしていく時間
だと思ってもらえると良いかもしれません。
カウンセラーからは、たとえばこんなことをお聞きします。
- 子どもの頃の家庭の雰囲気、親・きょうだいとの関係
- 学校生活の様子、印象に残っている出来事(楽しかったこと・つらかったこと)
- 好きなこと・苦手なこと、今の趣味や休みの日の過ごし方
- 一日の過ごし方、仕事や家事、社会生活で困っていること
- 精神科・心療内科での診断や薬の状況、身体の不調など
- これからどんな状態になれたらいいか(ぼんやりしたイメージでもOK)
話したくないこと・今は触れたくない記憶については、
「その話題にはまだ触れたくないです」と伝えてかまいません。
「初回で全部話さないとダメ」ということはありません。
むしろ、初回は
- お互いを知る
- 相性や安心感をたしかめる
- 今後のペースや方向性を一緒に考える
ための時間です。
2回目以降に深めていくこと ― 外からの価値観から自由になる
カウンセリングを続けていくと、次第に話題は深くなっていきます。
多くの方がある段階で向き合うことになるのが、
- 親から刷り込まれた「こうあるべき」
- 社会の「普通」「常識」とされている価値観
- 「いい人でいなければ」「頑張らなければ」という内なる声
との関係です。
私たちの生きづらさは、多くの場合、
本来の自分が望んでいること
vs
外から与えられた“正しさ”や“期待”
の板挟みから生まれています。
カウンセリングでは、
- 「これは本当に自分の考えだったのか?」
- 「誰かの期待やルールを守るためだけに、生き方を決めてこなかったか?」
といった問いを、一緒にていねいに見ていきます。
ここで大事なのは、
- 過去の自分を責めることではなく
- 「これからどう生きていくか」を選び直すこと
です。
言葉の対話に加え、必要に応じて
- 瞑想や呼吸法
- イメージワーク
- 身体感覚に意識を向ける簡単なエクササイズ
などを取り入れながら、
頭の理解だけでなく、身体と感情のレベルでも変化を感じていけるようにしていきます。
カウンセリングの期間とペース ― 「心の筋トレ」のようなもの
心の問題やトラウマは、短期決戦で一気に解決できるものではありません。
むしろ、少しずつ筋肉をつけるトレーニングのようなイメージに近いです。
目安としては、
- 週1回 または 2週に1回
- 毎回同じ曜日・時間・場所で
- 1回あたり 60〜90分ほど
といった一定のリズムで続けていく方が、
心が落ち着きやすく、深いテーマにも取り組みやすくなります。
期間は人それぞれですが、
- 数ヶ月〜1年ほどかけて取り組む方
- トラウマや長年のパターンに向き合うために、数年単位で続ける方
など、さまざまです。
もちろん、経済的・時間的な制約も現実にはありますので、
そのなかで無理のないペースを一緒に考えることもカウンセリングの大切なテーマです。
「一人で抱え込むのをやめてもいい」と思えたときが、始まりです
カウンセリングが必要な人は、
「特別に弱い人」でも、「人生がひどくこじれている人」でもありません。
むしろ、
- ずっと一人で頑張り続けてきた人
- 本当はつらくても、「まだ自分が我慢すればいい」と自分を後回しにしてきた人
- 助けを求める前に、「これくらいで相談してはいけない」と自分を責めてしまう人
が、少し勇気を出して扉をノックする場所です。
「このまま一人で頑張り続けるのは、もう難しいかもしれない」
「誰かと一緒に、自分のことを考えてみたい」
そう感じたときが、カウンセリングを検討してよいサインです。
もし今、
「自分のことを、もう少し大切に扱ってみたい」
という小さな声が、心のどこかでかすかに聞こえているなら、
その感覚を、どうか無視しないであげてください。
カウンセリングは、
- あなたの中にもともと備わっている「生きようとする力」を信じながら
- その力を、もう一度安心して使えるようにしていくためのプロセス
です。
「必要になったら、ここに相談できる場所がある」と
心の片隅にそっと置いておいていただければ、それだけでも十分だと思います。
心理療法やトラウマ治療の全体像を整理して理解したい方は、心理療法とは何か|トラウマ治療・カウンセリング・身体アプローチを統合的に解説をご覧ください。