ポリヴェーガル理論を簡単に|実践とエクササイズ

ポリヴェーガル理論は、「どう落ち着くか」を教える理論ではありません。なぜ、落ち着こうとしてもうまくいかないのかを説明する理論です。

不安、緊張、動悸、息苦しさ、頭が休まらない感じ。あるいは、何も感じない、動けない、現実感が薄い感覚。それらは「気の持ちよう」や「性格の弱さ」ではありません。

私たちの身体には、安全か/危険か/生命の危機かを、意識よりも先に判断してしまう神経の仕組みがあります。ポリヴェーガル理論は、その仕組みを説明する地図です。

このページでは、無理にリラックスしようとしたり、前向きになろうとしたりはしません。

まず、あなたの中で今、何が起きているのかを、神経系の視点から整理します。

理解できたあとで、必要な人だけが「身体に戻るための小さな実践」に進めば十分です。今は、読むだけでかまいません。

ポリヴェーガル理論とは何か

ポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)は、自律神経がどのように私たちの感情や行動、人間関係のあり方を形作っているのかを説明する、比較的新しい神経生理学の理論です。提唱者であるステファン・ポージェス博士は、新生児の突然死症候群の研究を出発点として、自律神経の働きが「安全」「危険」「生命の危機」といった環境の違いに応じて、劇的に変化することを示しました。

従来、自律神経は「交感神経=活動」「副交感神経=休息」というシンプルな二分法で語られてきました。しかしポージェス博士は、副交感神経の中に性質の異なる二つの迷走神経システムが存在することを明らかにし、自律神経を「三つのモード」で理解する枠組みを提示しました。それが、ポリ(poly=多重)・ヴェーガル(vagal=迷走神経)という名前の由来です。

この理論は、単に「ストレスに弱い」「神経が細い」といった曖昧な表現では捉えきれなかった現象──たとえば、トラウマや解離、対人不安、HSP 的な過敏さ、あるいは「なぜかリラックスできない」「親密さが怖い」といった感覚──を、神経系のレベルで構造的に理解するための地図を与えてくれます。

トラウマケアやカウンセリングにおいても、この理論は近年ますます重視されつつあります。なぜなら、クライアントの語りや症状を「心の弱さ」や「性格」の問題としてではなく、神経系の生存戦略として理解し直すことができるからです。

ポリヴェーガル理論を知ることは、自分自身の反応を責めることから少しずつ離れ、「ああ、これは私の神経がこう反応しているのか」と、すこし客観的に眺め直すきっかけにもなります。


三つの自律神経システム──背側迷走神経・交感神経・腹側迷走神経

ポリヴェーガル理論では、自律神経系を大きく三つの働きに分けて捉えます。

ひとつめは「背側迷走神経」、ふたつめは「交感神経」、そして三つめが「腹側迷走神経」です。これらは単に「緊張」「リラックス」といった二分法ではなく、それぞれ異なる生存戦略を担っています。

背側迷走神経──フリーズ・シャットダウン・解離の神経

背側迷走神経は、進化的にはもっとも古い、防衛的な副交感神経のシステムです。魚類や爬虫類など原始的な脊椎動物も持つとされ、主に内臓機能──消化や排泄──をコントロールする一方で、極限状況における「フリーズ」「シャットダウン」を引き起こします。

非常に強い恐怖や、繰り返される暴力、逃げ場のない支配関係などにさらされたとき、私たちの神経系は「闘う」「逃げる」といった活発な自己防衛反応さえ諦め、あえて動かないことで身を守ろうとすることがあります。身体が固まり、意識が遠のき、感覚が鈍くなり、外界の出来事が他人事のように感じられる──こうした状態の背景には、背側迷走神経の強い賦活があります。

トラウマや虐待を経験した人が、危険が去った後も、しばしば強い無力感や脱力感、慢性的な疲労、離人感、「何も感じない」という感覚に悩まされるのは、この背側迷走神経による不動化のパターンが、身体に深く刻み込まれているためです。

このあたりは、解離症状やフラッシュバックを扱った記事とも重なりますので、より詳しくは
👉 解離とは何か?原因・症状・治し方を専門家がわかりやすく解説をした記事も合わせて読んでいただくと理解が立体的になるはずです。

交感神経──闘争・逃走の神経

交感神経は、危険に対処するために身体を「戦うか、逃げるか」のモードに切り替える神経です。心拍数が上がり、呼吸が速く浅くなり、筋肉には血液が集中します。視野は狭まり、注意は外界の脅威へと向けられます。

機能不全家庭で育った子ども、不安定な職場環境やハラスメントに長期間さらされている人、あるいは慢性的なストレスを抱える人は、この交感神経モードが日常の基準になりやすい傾向にあります。

「いつも頭の中がざわざわしている」「何もしていないのに疲れている」「ささいな物音でドキッとする」「寝ようとすると心臓がドキドキする」──こうした訴えの多くは、交感神経が過度に優位になっているサインだと考えられます。

この状態については、
👉 自律神経系の症状チェックと原因: ポリヴェーガル理論の視点から でも詳しく扱っています。

腹側迷走神経──社会的交流と安心感の神経

背側迷走神経が「古い防衛システム」だとすれば、腹側迷走神経は、哺乳類が進化の過程で獲得した「新しい安全システム」です。

腹側迷走神経が優位なとき、私たちの身体は穏やかで安定した状態になります。呼吸は深くゆるやかで、表情は柔らかく、声は落ち着き、相手の表情や声のニュアンスを読み取り、共感的に関わることができるようになります。単に「リラックスしている」という以上に、他者とのつながりに開かれた、社会的な安全モードと言えるでしょう。

ポリヴェーガル理論では、顔の表情筋や耳・喉・首の動きに関わる脳神経群と、この腹側迷走神経をまとめて「社会交流システム」と呼びます。人の声のトーンや表情から「この人は安全か」「ここは安心していい場所か」を感じ取り、その感覚に応じて自律神経全体が変化します。

幼少期に、安全で温かい環境の中で育った人は、この腹側迷走神経モードが育ちやすくなります。一方、幼いころから常に緊張を強いられたり、虐待・無視・過干渉などにさらされてきた人は、安全よりも「危険」を優先的に感知する神経パターンを身につけてしまうことがあります。

そうした背景については、
👉 アダルトチルドレンの生きづらい理由でも詳しく取り上げています。


ニューロセプション──「安全か/危険か」を決めるのは、あなたの意思ではない

ポリヴェーガル理論の重要な概念に、「ニューロセプション(neuroception)」があります。これは、私たちが意識するよりもはるかに早く、神経系が環境をスキャンし、「安全」「危険」「生命の危機」を自動的に判断してしまうプロセスを指します。

たとえば、誰かの足音やドアの開閉音を聞いただけで胸がざわついたり、怒った声を聞いた瞬間に身体が硬くなったり、優しい人と話していると自然に肩が下がって呼吸が深くなったりする。こうした変化は、私たちが「怖がろう」「安心しよう」と決めたわけではなく、神経が勝手に反応しているのです。

トラウマを負った人の多くは、このニューロセプションが「危険」に偏っています。すでに成人して安全な環境で暮らしていても、身体の奥深くに刻まれた神経パターンは、「いつまたあのようなことが起きるかわからない」と判断し続けます。その結果、何も起きていないのに交感神経が常に高ぶっていたり、逆に強いシャットダウンが頻発したりします。

「普通はこんなことで気にしない」「自分は考えすぎだ」「メンタルが弱い」と自分を責めてしまう人も多いのですが、ポリヴェーガル理論の視点から見ると、これはあなたの人格の問題ではなく、神経系が身を守ろうとしている結果だと理解することができます。


トラウマ・CPTSD・解離とポリヴェーガル理論

複雑性PTSD(CPTSD)や解離性障害を抱える人の多くは、背側迷走神経と交感神経の間を振り子のように揺れ動いています。あるときは強い不安・焦燥・イライラや対人不安が出て(交感神経優位)、別のときには何も感じない、動けない、現実感が薄いといった状態(背側迷走神経優位)に陥る。

このとき本人は、「自分の性格が二重人格のようだ」「感情のコントロールができない」と感じますが、神経生理学的に見ると、それは**身体が「生き延びるためにモードを切り替えている」**とも言えます。

ポリヴェーガル理論は、こうした揺れを「おかしいもの」としてではなく、生存に必要だった反応が今も続いているのだという文脈で理解することを可能にします。そして、治療・回復の方向性も明確になります。すなわち、「症状を消し去る」のではなく、腹側迷走神経にアクセスする時間を少しずつ増やし、社会的な安全感と自己調整能力を取り戻していくことが鍵になるのです。

CPTSD や解離の臨床像については、
👉 複雑性トラウマについての総合ガイド
などの記事と合わせて読んでいただくことで、より立体的に理解できるでしょう。


日常生活で現れる「三つのモード」

ポリヴェーガル理論は、難解な理論というよりも、日常の体験を説明するための「翻訳装置」として使うことができます。たとえば、次のようなシーンを思い浮かべてみてください。

腹側迷走神経モードの日常

信頼できる友人と、静かなカフェでゆっくり話しているとき。気づけば時間を忘れて話に没頭し、呼吸は深く、体の力は適度に抜け、心地よい疲労感と満足感が残る──このような時間は、腹側迷走神経が優位になっている典型例です。

集中して本を読んだり、趣味に没頭したりしているときも同じです。「やる気にあふれている」わけではなくても、落ち着いた集中力、周りとの適度なつながり、安心して一人になれる感覚が保たれているとき、私たちはこの社会的交流システムの恩恵を受けています。

交感神経モードの日常

仕事の締め切りが迫っている、苦手な人と会う予定がある、家族との関係がギクシャクしている──そんな日には、目覚めた瞬間から心拍数が高く、呼吸が浅く、胸のあたりが落ち着かない感じが続きます。頭の中では「どうしよう」「失敗したらどうしよう」といった思考がぐるぐると回り続けるでしょう。

周囲からは「頑張り屋」「責任感が強い」と見られていても、実際には神経系が常に「闘争・逃走」の準備をしている状態かもしれません。このような慢性的な交感神経優位は、長期的には睡眠障害、消化器症状、慢性疲労など、身体的な不調とも結びついていきます。

背側迷走神経モードの日常

「やることはわかっているのに、体が動かない」「気づいたらベッドやソファから動けず、一日が終わっていた」「何をしても楽しく感じない」。

こうした体験の背景には、背側迷走神経による不動化がある場合があります。

単なる怠けや意志の弱さではなく、**身体が極度の防衛モードに入り、“動かないことで身を守ろうとしている”**のです。安全な環境が整っていたとしても、神経系の記憶は簡単には消えません。幼少期から繰り返された恐怖や無力感が、身体に深く刻み込まれていると、「今はもう大丈夫だ」と頭で理解しても、身体は別の答えを出し続けます。


ポリヴェーガル理論に基づく自己調整エクササイズ

ポリヴェーガル理論の大きな利点は、理論を理解するだけでなく、具体的な身体ワークとして実践できる点にあります。

今日できる最短ステップ(3〜5分)


このステップの目的は、気分を良くすることではありません。神経系が「今は安全に戻れる」と思い出すことだけを目指します。

① 姿勢で“支え”をつくる(30秒)
椅子に座り、背中を背もたれに軽く預けます。背筋を伸ばそうとせず、「身体が支えられている感覚」を優先します。正しい姿勢より、力を抜ける姿勢が大切です。

② 視覚で安全を確認する(30秒)
部屋の中で、刺激が弱く安心できるものを3つ探します(壁の色、床、カーテン、光の当たり方など)。これは「ここに危険はない」と神経系に伝える作業です。

③ 声を小さく使う(30〜60秒)
小さな声で「大丈夫」「今ここ」「終わっている」とつぶやきます。声を出す・ハミングすることは、腹側迷走神経(安心・つながりの神経)に直接働きかけます。

④ 呼吸は“整えない”(1分)
深呼吸や呼吸法はしません。ただ、吐く息が少し長いかもしれないと気づくだけで十分です。「うまくやろう」としないことが、神経系には最も安全です。

⑤ 終わりをはっきりさせる(30秒)
周囲を見渡し、心の中で「今は終わり」と区切ります。終わりを意識することで、神経系は元の状態に戻る練習ができます。

途中で違和感が出たら、①と②だけで終了してください。途中でやめられること自体が、回復的な反応です。

ポイント(とても大切)
落ち着こうとしない/良い感覚を作ろうとしない/短く終わる。
ポリヴェーガル理論の実践は、「普通に戻れたら成功」です。

肩のエクササイズ──社会交流システムへの入り口

長年、危険を察知し続けてきた人の身体では、首から肩、顎、顔周囲の筋肉が慢性的に緊張しています。これは「いつ何が起きてもすぐに反応できるように」と、神経系が準備している状態です。

そこで、まずは左右の肩の感覚に注意を向けます。

両肩をすこしすくめてみて、「どちらがより緊張しやすいか」「どちらに違和感が出るか」を、言葉にせず、ただ感じ取ってみます。緊張が強く感じられる側の肩に意識を向け、その肩だけを少し強めに縮めてみましょう。

しばらく縮めたのち、肩が「自然に動きたがる方向」を探ります。ほんの少し後ろかもしれませんし、下かもしれません。あるいは斜め前かもしれません。その“動きたがっている方向”に、ゆっくりと肩を動かし、そこで静止し、呼吸の変化や体の内側の感覚に耳を澄ませます。

このとき大切なのは、「正しいフォーム」を意識することではありません。身体のほうが勝手に選ぼうとしている動きに道をゆずり、そのプロセスを見守ることです。しばらく続けると、肩の位置がほんの少し変わり、首の動きが楽になり、視界が明るく感じられる場合があります。それは、社会交流システムに関わる筋肉と腹側迷走神経が、少しずつ活性化しているサインです。

口と顎のエクササイズ──言葉にならなかった感情の出口を作る

怒りや悲しみ、恐怖を表現することが許されなかった子どもは、しばしば顎や口周囲の筋肉を固くして、言葉を飲み込んで生き延びてきました。「余計なことを言わない」「本音を隠す」という生き方は、同時に口と顎の慢性的な緊張と結びつきます。

椅子に腰かけ、背もたれに軽くもたれながら、顎をわずかに引きます。そして、無理のない範囲で、ゆっくりと口を開けてみます。

あるところまで開くと、「これ以上は開けたくない」「ここで止めたい」という微妙な抵抗感が現れるかもしれません。その地点で一度止め、今度はゆっくりと口を閉じます。この「開ける/閉じる」を数回繰り返しながら、顎の重さや、首の付け根、胸のあたりの感覚の変化に注意を向けてみましょう。

このとき、「もっと大きく開けたほうがいいのでは」「ストレッチとしてはもの足りないのでは」といった評価的な思考が浮かぶかもしれません。しかし、このワークの目的は筋トレでもストレッチでもなく、神経系の「ここまでなら安全に開けても大丈夫だ」という範囲を、少しずつ感じ取り直すことにあります。

言葉にならなかった思いや、飲み込まざるを得なかった感情が、口周りの筋肉の緩みとともに、すこしだけ外の世界に出やすくなる。そうした変化が、時間をかけて起きていきます。

目のエクササイズ──恐怖ループをほどく

強い恐怖やトラウマを経験した人は、視線の動きにも特徴が表れます。部屋の隅や床ばかり見てしまう、逆に周囲を常にスキャンして落ち着かない、誰かの目を見ると急に緊張する──いずれも、神経系が安全と危険を見分けようとしているサインです。

姿勢を安定させた状態で、頭は動かさず、目だけを左右にゆっくりと動かしてみます。左端、右端まで動かしてみると、「こちら側が動かしにくい」「こちら側を見ると嫌な感じがする」といった微妙な違いに気づくかもしれません。

動かしにくさを感じる側に目を向けたまま、数秒〜十数秒ほど静止し、その間に身体の中で起きる変化を観察します。胸の奥の重さが変わるか、首の緊張が変わるか、呼吸のリズムがどう変化するか。

十分だと感じたら、視線を正面に戻し、目を閉じて少し休みます。必要であれば上下方向でも同じことを行います。

このエクササイズは、「恐怖を思い出して耐える」ことが目的ではありません。安全な場所で、安全な時間に、視線と神経系の反応のつながりを身体感覚として再学習することが目的です。

こうした身体ワークとあわせて、トラウマや解離についての理解を深めたい方は、
👉 トラウマ反応・身体症状の記事一覧
も参考になるはずです。

不快な身体反応や過緊張は、神経系が過去の体験を「安全ではない」と記憶していることが影響している場合があります。詳しくは、ソマティックエクスペリエンスの解説をご覧ください。
👉 ソマティックエクスペリエンスとは|身体感覚を使ったトラウマ治療


神経系のバランスと自己理解

ポリヴェーガル理論は、三つの自律神経モードのうち、どれが「良い」「悪い」と優劣をつける理論ではありません。交感神経も、背側迷走神経も、腹側迷走神経も、本来はすべて生き延びるために必要な機能です。

重要なのは、どれか一つのモードに固定されるのではなく、状況に応じて柔軟に行き来できることです。必要なときには交感神経を使って行動でき、危険が去ったら腹側迷走神経に戻り、極限状況では背側迷走神経が一時的に作動しても、そこからまた安全なモードへ帰ってこられる。

その「行き来のしやすさ」が神経系のレジリエンスであり、心のしなやかさでもあります。

トラウマや機能不全家庭の影響を受けてきた人は、この行き来が難しくなっていることが多いものです。しかし、これは「性格」や「意志」の問題ではありません。神経系が長年の経験から学習した結果であり、そのパターンは新しい経験と安全な関係性を通して、少しずつ上書きしていくことができると考えられます。

そのための土台づくりとして、ポリヴェーガル理論の視点から自分の反応を理解し直すことは、非常に大きな意味を持ちます。

たとえば、HSP や神経系の過敏性についての解説は、
👉 HSP・神経系の過敏性 — 心と身体が受け取る世界の強さを理解するために
ともつながっていきますし、対人関係や性格傾向については、
👉 パーソナリティの特徴や自己愛、境界傾向について理解するために
とも相互に関連しています。


ポリヴェーガル理論 エクササイズFAQ

Q. どれくらいで効果が出ますか?
A. その日の変化よりも、「安全な状態に戻れる回数」が増えることを重視します。小さな回復を積み重ねることで、神経系は少しずつ安定していきます。

Q. 毎日やるべきですか?
A. 毎日必須ではありません。体調が比較的安定している日に、短時間行うのが基本です。無理に続ける必要はありません。

Q. 一人でやっても大丈夫ですか?
A. 軽い不調やセルフケア目的であれば可能です。ただし、強い解離症状やフラッシュバックがある場合は、専門家と一緒に行うことが安全です。

Q. やって悪化することはありますか?
A. 無理に呼吸を深くしたり、長時間続けたりすると、逆に不安や不調が強まることがあります。違和感が出たら中断してください。

Q. 呼吸法は必ず必要ですか?
A. 必須ではありません。視覚・姿勢・声・動きなど、呼吸以外のアプローチでも神経系は調整できます。

Q. 効果が分からないときは失敗ですか?
A. 失敗ではありません。「何も起きなかった」という経験自体が、安全を学習する一部です。


まとめ──「心」ではなく「神経」から自分を理解し直す

ポリヴェーガル理論は、「ストレスに弱い」「メンタルが弱い」「性格に問題がある」といった自己批判的な物語に対して、まったく別の物語を提示してくれます。

あなたが過剰に緊張してしまうのも、些細な刺激でフリーズしてしまうのも、親密さが怖いのも、必要以上に周囲を気にしてしまうのも、それらはすべて、あなたの神経系が生き延びるために選んだ防衛パターンだと見なすことができます。

もちろん、そのパターンが現在の生活や人間関係を苦しくしていることも事実です。しかしそれは、「壊れているから」ではなく、「一時的には必要だった防衛が、今も続いてしまっている」からだと理解し直すことができます。

ポリヴェーガル理論は、そうした防衛のパターンを、責めるのでも美化するのでもなく、静かに見つめ直し、少しずつ調整していくための地図です。

そして、その地図を手にしながら、

  • 神経系の状態に気づくこと
  • 身体感覚に耳を澄ませること
  • 安全な人間関係の中で、自分の感情を少しずつ表現してみること
  • 必要に応じて、専門家の支援を受けること

といった小さなステップを積み重ねていくことが、回復への道となっていきます。


心理療法やトラウマ治療の全体像を整理して理解したい方は、心理療法とは何か|トラウマ治療・カウンセリング・身体アプローチを統合的に解説をご覧ください。

参考文献:小倉智子『イラスト図解-神経系&ポリヴェーガル理論入門』Kindle版

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