アイデンティティの拡散・クライシス

心理学

思春期の頃に、アイデンティティが拡散している人は、内面の葛藤が強くなり、自意識が過剰になって、不適応な行動や精神疾患の困難を抱えます。ここでは、境界例の病理、ナルシシズム、解離、発達障害などと関連が深いアイデンティティの拡散について述べていきます。

アイデンティティとは

アイデンティティは、E.H.エリクソン(アメリカの精神分析家)の用いたもので、自我同一性、自己同一性などに訳語が用いられるようになりました。エリクソンが用いたのは、青年期(思春期)の発達課題に起こる現象でアイデンティティの拡散と呼びました。

アイデンティティとは、自己同一性であり、自分とは何者かという概念をさします。アイデンティティは、これが他ならぬ自分であり、他のものではないという状態です。アイデンティティが確立するというのは、自分は誰なのかを知り、自分は何になりたいかということです。

子どもの頃は、学校の先生、両親、周囲の人などを理想的な対象として同一化していきますが、その理想的な対象の欠点を見つけたり、自分とは異なる価値観に気づいたりしていく過程で、この理想化と脱錯覚のプロセスを通して、本当の自分や、自分のやりたいことが分かってきます。

青年期-アイデンティティの拡散

思春期の頃に、自我(自立心)が芽生えるため、自分や周りを客観的に見れるようになり、自意識が過剰になる時期です。周りの目が気になり、自分が人からどう見られているかを気にして、周囲の期待に応えようと努力し、あるべき姿を目指します。しかし、人と関わることへのストレス耐性が低く、自律神経系の調整がうまく働かない場合は、上辺だけを取り繕うだけになり、自分のことがよく分からなくなったり、その努力がうまくいかなくて落ち込んでいきます。アイデンティティの確立に失敗し、拡散している人は、失敗が許されなく、緊張が強すぎて、他愛もない話をすることができません。友達関係や親密な関係に悩み、うまくコミュニケーションができなくなります。

彼らは、親や周囲の様子を伺い続けてきたため、日々の生活が虚しくなり、自分の気持ちが分からないとか、自分が何をしたいかもわからないとか、自分がどうすればいいか分からないなど、自己感が喪失していきます。現代のトラウマ理論で言えば、複雑なトラウマがあり、解離している人か、発達障害の人になります。人は、複雑なトラウマを負う過程で、自己感の喪失、身体性の欠如、時間感覚の障害、感情の鈍磨、思考の混乱など症状が現れます。日常を過ごす自己はあたかも正常に見せて、正常な生活を続けていますが、 身体性を失っていき、自分は一体誰で、何のために生きているだろうと自分を見失います。

トラウマがある人は

トラウマがある人は、トラウマのない人と比べると、非常にショックを受けやすく、強い緊張状態にあります。日常生活のなかで、失敗したり、嫌われたり、恥をかいたりなど、ショックを受けると、凍りつきや虚脱反応が出ます。彼らは、安心できそうなものに近づいてショックを受けたり、頼りになる人に近づいて期待を裏切られて、トラウマを繰り返してきました。ショックを受けるたびに、胸がざわついて、嫌な感覚になり、過呼吸、パニック、声が出ない、感情をコントロールできない、この世界がぼやける、この世界から遮断される、居ても立っても居られないイライラ、身体が動かないなどの症状が出ます。

トラウマの影響から

彼らは、一度の失敗が命取りになると思い、落ち着きがなく、焦りを感じ、いつもぎりぎりのところで生きていて、まるで戦場にいるかのようです。失敗することが怖くて、うまくいかなくなる不安があり、自分がこんなことを言ったら嫌われるかもとか、面白い人間にならないといけないと思って、自分に自信がありません。そして、自分のあるべき姿を考え、周囲の期待に応えないといけない、完璧でないといけない、失敗できないという思い込みが自分を縛り付けて、正しい答え、正しい選択肢を選ぼうとしており、思考でなんとかしようとしますが、答えが見つからずに苦しみます。

対人関係がうまくいかない

神経が繊細すぎて、ノイズへの耐性が低く、不安定で、自分ひとりでは抱えきれません。人から悪意を向けられることが怖くて、恐怖を感じると石のように固まってしまうため、周りに合わせることで自分を成り立たせるか、死んだふりをして生きていくようになります。周りに合わせていけば、本当の自分のしたいことが分からなくなり、人目につかないように、自分の存在を隠していけば、最下層を生きることになります。その一方、理想が高く、プライドがあり、誇大な妄想に耽って、思い上がり、相手を見下したりします。

自己肯定感が低い

学校の下位のグループの属して、自己肯定感を低いままで、劣等感が抱え、自分に満足できません。対人関係が苦手で、コミュニケーション能力が低く、人と関わる実体験が少ないです。外の世界で人と繋がるよりも、家の中でアニメ・ゲームをして、自分ひとりの世界にこもります。

スチューデントアパシー

アイデンティティが拡散している人の特徴として、学校が怖く、登校拒否や休学をして、スチューデントアパシー(学生無力感症)の問題が出ます。学校に行くことや、人との交流が気軽にできず、一人戦場で生きながらえているような状態で生活しています。他者の存在は、自分を脅かすトラウマのトリガーになっています。人と関わることの実体験が少なく、外の世界では失敗体験が続き、普通の人のような生き方ができません。あのときこうしとけばよかったという後悔や、悔しさで、過去のことに執着していきます。あるがままの自分を受け入れられず、どうしてもネガティブな面に目がいって、前に進むことができません。

動けなくなっていく

外の世界では、気を張り詰めすぎて、感情に圧倒されたり、身体の弱いところが症状化したり、心身が消耗していって、集中することが困難になります。家に帰ると、疲れ切っていて、体力もなく、何をするにもエネルギーが残っていません。気力がなく、仕事や学習が出来なくなり、食事や風呂、トイレすらもめんどくさくなります。そして、身体が段々と動かなくなり、能力が低下して、精神が崩壊しそうになります。

選択できなくなる

社会が与えているモラトリアムを利用できず、どんな選択・決断に対しても、この現実世界に答えが明白なものはないため、葛藤が強くなります。どれをとってもリスクがあり、過去の失敗を引きずり、前に進むことが怖くて、身動きが取れなくなります。身動きが取れない時間が長ければ長いほど、年を取っていくから、失敗するリスクが高まります。無計画に時間だけが引き延ばされて、取り返しのつかない事態になり、親の不適切な態度を責めたり、自分を責めたりが繰り返されます。そして、非常に切迫した状況や切迫した選択肢に迫られ、不満、後悔、怒り、孤独、絶望、希死念慮が高まります。

トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2021-03-26
論考 井上陽平

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