アイデンティティの拡散症候群の症状・原因|引きこもりの病気

心理学

アイデンティティの拡散は、特に思春期(青年期)に若者たちが抱える内面の葛藤を強める原因となります。思春期は、自分自身に対する認識や価値観が形成される時期であり、アイデンティティの拡散は、このような過程に抵抗を感じさせます。アイデンティティの拡散は、境界例の病理、ナルシシズム、解離、発達障害、パーソナリティ障害などと密接な関連があります。これらの障害は、不適応な行動や精神疾患として現れますが、アイデンティティの拡散が根本的な原因である場合もあります。思春期には、アイデンティティの形成に伴う葛藤と抵抗を克服することが求められますが、アイデンティティの拡散がある場合には、特に困難な状況に陥ることもあります。

アイデンティティの意味を簡単に

思春期(青年期)は、自己の同一性とアイデンティティについて考える重要な時期です。E.H.エリクソンによって「アイデンティティの拡散」と呼ばれる現象が発見されました。アイデンティティとは、自分自身が誰であり、何者であるかという概念を示します。これは、自己同一性を指します。

アイデンティティの確立は、自分自身を知り、自分の価値観や夢、目標を明確にすることを意味します。子どもの頃は、家族や先生などの周囲の人々を模倣し、自分自身を理解することを試みます。しかし、欠点や価値観の違いを見つけることで、自分自身と他人を区別することができるようになります。このプロセスは、自分自身を理解するための重要な一歩です。

思春期(青年期)アイデンティティの確立と拡散

思春期は、自我が芽生えて、自己に関する考えが強くなる時期です。この時期には、周囲からどう見られているか、自分自身がどのように見えているかが気になります。このため、周囲の期待に応えようと努力し、「あるべき姿」を目指すこともあります。しかし、このような努力がうまくいかない場合や、環境が劣悪な場合、さらには個人のストレス耐性が低いと、自分自身に対する自信がなくなってしまいます。

思春期は、子どもの身体が目覚ましい成長を遂げる一方、ストレスが過度にかかると、自律神経系の調整がうまく働かない場合があります。このような状況では、自分自身に対する自信を失い、不安や恐怖の日々が続くと、上辺だけを取り繕うだけになってしまいます。また、失敗が許されないと感じたり、緊張が強すぎて、他愛もない話をすることができなくなったり、友達関係や親密な関係に悩んでしまうこともあります。このようなことが続けば、アイデンティティの確立に失敗し、拡散することがあります。

彼らは、親や周囲の人たちの様子を伺い続けてきたことから、日々の生活が虚しさを感じるようになります。自分の気持ちがわからないことや、自分が何をしたいかが分からないこと、自分がどうすればいいかも分からないといった状況から、不安が強くなり、自己感覚が喪失していきます。

現代のトラウマ理論によれば、複雑なトラウマを抱えた人や解離している人、発達障害の人は、自己感覚を喪失する可能性があります。人が複雑なトラウマを経験する過程で、痛みに支配され、疲労が蓄積し、感覚が麻痺して、自己感覚の喪失、身体感覚の欠如、時間感覚の障害、感情の鈍磨、思考の混乱などの症状が現れます。日常を過ごす彼らは、正常に見せかけて正常な生活を続けていますが、実際には人間らしい感覚を失っていき、自分が一体誰で、何のために生きているのかも分からなくなっていきます。

トラウマがある人は

人々は異なる経験やトラウマを持つことがあります。トラウマを抱えた人々は、他の人よりも強い緊張状態に陥り、音や光、匂い、人の気配などの外的な要因に敏感に反応します。また、ストレスに弱い面もあり、小さなショックやトラブルに対しても強い影響を受けやすい傾向があります。

このような人々は、安心できそうな環境や人々に近づいても、トラウマを繰り返すことがあります。トラウマトリガーとなるような出来事が起こると、胸が詰まり、不快な感情に襲われ、凍りつきや死んだふり、虚脱、過呼吸、パニック発作などの症状が現れます。さらに、孤独な不安な感覚、落ち着かない、声が出ない、感情をコントロールできない、周囲がぼやけて見える、この世界から遮断されている感覚、動けなくなるなどの症状も出現することがあります。

トラウマの影響から

人々によってトラウマの程度は異なりますが、複雑なトラウマを抱えた人々は、一つの失敗が悲劇的な結果をもたらすという恐怖から、常に不安にさいなまれています。彼らは、落ち着かない気持ち、いつも緊張感、恐怖に襲われることが多いため、まるで戦場にいるかのような生活を送っています。

彼らは、社会の枠の中に入る時に、自由になれない拘束された状況や逃げられない状況に対して恐怖を感じます。また、自分の感情をコントロールできなくなることを恐れています。人と親密な関係を築くことが苦痛に感じられ、他のものとの距離を置きたくなりますが、学校や社会での対人コミュニケーションのスキルが求められるために、逃げ道がなくなってしまいます。このような状況から逃れられず、どうしていいか分からないままの状況に直面することから、血の気が引いたり、生気を失ったり、うつや解離などの症状が出てきます。

人間関係を作ることは、複雑で不安な気持ちを伴います。自分が話すことや行動によって、周りの人から嫌われるかもしれないとか、面白い人間にならないといけないと考え、自分に自信を持てないこともあります。また、周囲の期待に応え、完璧な人間にならなければならないという思い込みもあり、自分の本来の姿とは違った姿を演じなければならない状況に縛られます。失敗を恐れ、正解を探し、正しい選択肢を見つけようとする思考に駆られますが、答えが見つからず、苦しむこともあります。

対人関係がうまくいかない

アイデンティティが拡散している人は、神経がとても繊細で、人と繋がることが苦しいという特徴があります。彼らは不安定な状況であり、自分ひとりでは抱えきれないと感じています。人から悪意を向けられたり、脅かされたりすると恐怖を感じ、石のように固まってしまいます。そのため、周りに合わせることで自分を成り立たせるか、死んだふりをして生きていくような行動を取ることがあります。そのような行動をすることで、本当の自分が分からなくなり、人目につかないように、自分の存在を隠して最下層で生きてしまうこともあります。その一方で、彼らは理想が高く、プライドがあり、誇大な妄想に耽って思い上がっている場合もあります。相手を見下すような態度を取り、自分自身を高く評価する傾向があります。

自己肯定感が低い

アイデンティティが拡散している人は、学校の下位グループの一員として、自己評価が低いままに過ごしています。時にはネガティブな面に目を向け、自分を満足させることができず、不安や不満が頭をよぎってしまいます。コミュニケーション能力が低いことから、人との関係が苦手で、人と関わる実際の経験が少ないため、積極的な行動を取れないという自己評価を持っています。代わりに、家の中でアニメやゲーム、SNSなどで、自分自身の世界にこもって、外側の世界との接触を避けるような生活を送っています。

スチューデントアパシー

アイデンティティが拡散している人は、学校や社会への不安感が強く、学校生活を避けるために登校拒否や休学をすることがあり、これがスチューデントアパシー(学生の無力感症)の問題を生みます。彼らは、他の人とのコミュニケーションが苦手であり、人と接することが気軽にできず、孤独な生活を強いられています。他者の存在は、自分を脅かすトラウマのトリガーになり、学校や社会から自由を望んで逃げることがあります。しかし、これらの原因から、人と関わることの体験が少ないまま外の世界では失敗体験が続き、普通の生活を送ることができず、過去の悔しさや後悔に囚われ、思い悩むこともあります。

動けなくなっていく

アイデンティティが拡散している人は、外側の世界でストレスと過緊張にさらされ、気を張り詰めすぎます。これは、彼らの感情を圧倒することがあり、身体の弱い部分が症状化します。親の過度な期待や勉強の圧力、長期的な労働によって、心身は消耗され、凍りつくか打ちのめされてしまいます。家に帰ったとき、疲れがたまり、エネルギーが残っていないため、仕事や学習、食事、風呂など日常生活すらも困難になります。このような状況は、身体能力の低下とともに、精神的な崩壊にまで繋がることがあります。

選択できなくなる

アイデンティティが拡散している人は、多くの課題と葛藤が伴います。社会によって規定された「正解」がないため、自分の人生を選択する際には、リスクが伴います。どれをとってもリスクがあり、過去の失敗を引きずったまま、前に進むことが困難になります。特に、身動きが取れない時間が長くなれば、失敗するリスクは高まり、年を取っていくことになります。これによって、無計画に時間が引き延ばされ、取り返しのつかない事態に陥る可能性があります。このような状況では、親の不適切な態度を責めたり、自分を責めたりすることが繰り返されます。さらに、切迫した選択肢に迫られることによって、不満、後悔、怒り、孤独、絶望、希死念慮が高まり、人生はますます困難なものになります。

モラトリアム:回復と自己再生への道

頻繁に親から虐待や酷い扱いを受けてきた人は、恐怖の深淵に陥り、自己価値感が打ちのめされることがあります。恐怖は彼らを心の奥底に凍りつかせ、機能する能力を低下させる可能性があります。これは、社会における日常的な対人関係から仕事に至るまで、幅広い活動に影響を及ぼす可能性があります。その結果、彼らは社会的な競争や挑戦に対する力を失うことがあります。

そのような状況下で、人々は自身と人生に再び向き合う時間や場所を必要とします。これは、心の傷を癒すためのモラトリアム、つまり一時的な休止期間として見ることができます。この期間中には、彼らは自己の回復に専念し、自己の理解を深め、新たなアイデンティティを形成する機会を持つでしょう。このモラトリアムが終わると、彼らは再び前向きな行動を取り、人生における様々な挑戦に対する努力を始めることができるようになるかもしれません。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2021-03-26
論考 井上陽平

心理学
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