不定愁訴: 複雑性PTSDの原因不明の身体症状

複雑性トラウマ

不定愁訴とは、医学的な原因が特定できないにも関わらず、体調がすぐれない、あるいはさまざまな自覚症状に悩まされる状態を指します。このような症状は、しばしば複雑なトラウマや心理的ストレスと関連しています。トラウマとは、過去に経験した精神的な傷害や極度のストレスのことを言い、その影響は時に肉体的な不調として現れることがあります。

例えば、過去の辛い経験や心的外傷は、不安、うつ、睡眠障害など多様な心理的症状を引き起こすことがありますが、これらは身体的な症状としても現れることがあります。具体的には、頭痛、胃腸の不調、疲労感、筋肉痛などの形で現れることがよくあります。これらの身体的な症状は、特定の病気や身体的な異常が原因ではなく、精神的なストレスやトラウマが根底にある場合が多いのです。

トラウマの心と身体への深刻な影響と自己認識の変容

トラウマは、私たちの心と体に深刻な影響を及ぼし、時間感覚や認識の流れを乱す複雑な現象です。過去のトラウマ的出来事が現在に干渉し、心にフラッシュバックや過去の声が突然響き渡ることがあります。このような経験は、時空が歪んでいるかのような感覚を与え、過去と現在の間で心が揺れ動くことになります。結果として、現実との境界が曖昧になり、自己のアイデンティティが不明瞭になることがあります。自分の身体から浮き上がっているような感覚に陥ることさえあります。

トラウマによる深い精神的傷害は、感情の麻痺や断裂を引き起こし、心に断層を形成します。この状態では、感情が適切に感じられなくなるか、感情の処理が困難になることがあります。また、感情が渦巻いている場合、些細な刺激にも心が反応し、怒りや不安などの強い感情が湧き上がることがあります。これらの感情が他者に向けられることで、人間関係にトラブルをもたらすこともあります。喜びや悲しみ、恐怖や怒りなどの基本的な感情が正常に機能しなくなり、一部の感情を無意識に抑制してしまうこともあります。

トラウマを持つ人々は、しばしば自己のアイデンティティに対しても混乱します。過去の出来事が、現在の自己像に影を落とし、どのように自己を定義し、他者と関わるべきかについての不確かさを感じます。これは、過去の出来事が現在の自己認識や自己価値感に深い影響を及ぼしているためです。このようにトラウマは、私たちの人生において深く根ざした影響を与え、自己理解や人間関係の構築において重要な課題となります。

複雑なトラウマとフラッシュバック: 心身への深刻な影響

複雑なトラウマを抱えた人々が、トラウマのトリガーに直面した時、彼らの身体は言葉にできないほどの強烈な反応を示します。フラッシュバックに見舞われる瞬間、彼らは深い不安とパニックを感じます。胸がざわざわし、心臓は激しくドキドキし、手足は冷たく感じられます。全身がゾワゾワし、苦痛が押し寄せ、体が完全に固まるような感覚に襲われます。手足は震え、言葉を発することができず、力が入らず、身動きが取れなくなることもあります。

このような状況では、トラウマを経験した人々は、過去の出来事が現実と重なり合うように感じ、現実の感覚が失われることがあります。彼らはしばしば、過去の恐ろしい記憶と同じような感情、身体感覚、心理的ストレスを体験します。これらのフラッシュバックは、突然かつ予測不可能に起こり、日常生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。

トラウマの影響は、感情だけでなく、身体的な状態にも現れます。トリガーによって引き起こされるフラッシュバックは、ただの記憶ではなく、その時の身体感覚や情緒をそのまま現在に持ち込むようなものです。このような強烈な体験は、人々が日常生活に適応し、健康的な関係を築くことを困難にします。

複雑なトラウマと関連する身体症状: 子供時代からの影響

人々が複雑なトラウマを抱える場合、その影響は心理的な面だけでなく、身体的な健康にも及びます。特に、子供時代から継続的な緊張やストレスに晒された人々は、様々な身体的な症状に苦しむことがあります。これにはアトピー、喘息、気管支炎、鼻炎、過敏性腸症候群、チック、ムズムズ症候群、自家中毒などが含まれ、これらの症状はしばしば原因が特定できないため、日々の生活に悪影響を及ぼすことがあります。

これらの人々は、社会の強い圧力の中で、不安定な人生を送ることが多いです。体調が悪い中での日々は、人間関係に疲弊し、何かに依存することや、自分の身体性や感情を失うこと、思考に囚われることにつながることがあります。

加えて、孤独や寒さ、暗闇、低気圧、飢え、集団などの環境的な圧力は、トラウマを持つ人々にとって特に負担となります。これらの圧力に対し、彼らは解離や離人感覚、狂気、パニック、過呼吸、不眠、頭痛、めまい、吐き気、腹痛、下痢などの原因不明の身体症状を経験することがあります。これらの症状は、目に見えない内面の苦痛が体現されたものと言えます。

長年に渡るトラウマの影響: 自律神経と身体的症状

子供時代からのトラウマやストレスに長期間さらされた人々は、自律神経のバランスが崩れやすいという特徴を持ちます。このバランスの崩れは、人の心だけでなく身体にも影響を及ぼし、さまざまな身体的症状を引き起こす可能性があります。

私たちの神経系は、「戦うか逃げるための交感神経」と「リラックスするための副交感神経」の二つの部分から成り立っています。トラウマによってこのバランスが崩れると、身体は常に警戒モードで稼働し続ける状態になり、これが長期間続くと、心と身体に過度なストレスを与え、多様な身体的および精神的な症状を引き起こします。

このような状態の人々は、潜在的な脅威に対して異常な警戒心を持ち、過緊張状態になることがあります。恐怖や緊張が高まると、筋肉が硬直し、血管が収縮し、心拍数が増加し、呼吸が浅く早くなるなどの身体的な変化が起こります。これらの変化は、微かな不快感に対しても、圧迫感や息苦しさを引き起こすことがあります。

また、持続的な警戒モードは、長期的な身体的症状を引き起こすことがあり、首や肩、背中の筋肉が緊張し続けることで痛みやこりを引き起こすことがあります。頭痛、目の疲れ、集中力の低下なども発生し、日常生活におけるストレスや不快感を高めます。これにより、睡眠障害、消化不良、免疫力の低下など、身体全体に影響が及ぶことがあります。

深く刻まれたトラウマは、精神的な問題に留まらず、身体の内部にも広範囲に影響を及ぼすことがあります。これにより、線維筋痛症、慢性疲労症候群、化学物質過敏症、過敏性腸症候群、顎関節症などの疾患が発生することがあり、これらは深いトラウマとの間に密接な関連があると考えられています。

複雑なトラウマが引き起こす心身の不調と行動への影響

複雑なトラウマを抱えている人々は、その影響を心理的な面だけではなく、日常の行動においても感じています。彼らの行動が遅いとか、能力がないといった印象を受けることがありますが、これは意図的なものではありません。実際には、彼らは内面の深い苦しみや身体的な不調により、行動に影響を受けています。

過去のつらい経験からくる記憶が突然蘇ると、彼らは再びその恐ろしい瞬間を体験しているかのように感じ、足元から恐怖が体全体を支配します。これによって、足の動きが鈍くなったり、反対に強い力で逃げ出したくなったりすることがあります。

また、身体の感覚が麻痺し、力が入らなくなることや、体が固まって動けなくなることもあります。時には、自分の体が「バラバラ」になっているように感じたり、身体の一部が「消えている」という感覚に陥ることがあります。これらの症状は、トラウマが心と身体の間に深刻な分離を引き起こしていることを示しています。

このような状態にある人々は、外出することさえも一苦労となります。他人の視線を避け、目立たないようにすることが彼らにとっては重要なことであり、そのためには自分がいる場所を隠すことすらあります。これは、外界からの刺激を避けるための防御機制であり、外部環境に対する彼らの過敏な反応を反映しています。

社交場面でのトラウマ: 深い緊張とコミュニケーションの障害

人々が複雑なトラウマを抱えている場合、社交的な場面で苦労することがよくあります。彼らは他人と一緒に時間を楽しく過ごしたいと望むこともあるのですが、人と話す際には深い緊張を感じることがあります。何を話せばよいのかわからない、または話したい言葉がすぐには出てこないといった経験は、彼らにとって非常にストレスの原因になります。

このような感じ方は、社交的な場面でリラックスしたり楽しむことを難しくします。人との関係に対する恐怖や不安から、彼らは頭が真っ白になり、言葉が詰まる感じや、考えがまとまらない感じ、相手の話が頭に入ってこないなど、コミュニケーションがスムーズにいかないことがあります。多くの場合、自分を孤立させて一人でいることを選ぶことになります。これは、自分が周囲と異なると感じ、生活そのものが辛くなる原因にもなります。

トラウマを抱える人々は、社交的な場面での自分の行動や感情に対して、過剰に自己意識し、自己批判に陥りやすいです。社交の場での自分の行動や反応が不自然に感じられ、これがさらに不安や緊張を増加させることがあります。これらの感情は、トラウマによる自己意識の高まりや、他人との関係における不安から来るものです。

ヨガとストレッチの効果: 身体と心のアプローチ

ヨガやストレッチは、体を健康に保つための非常に効果的な方法です。これらの活動では、筋肉の伸縮運動と深い呼吸を組み合わせて行うことが特徴です。この組み合わせにより、筋肉が柔軟になり、身体の緊張が和らぎます。また、深い呼吸は副交感神経を刺激し、身体の「リラックスモード」を促進します。これにより、ストレスホルモンのバランスが整い、全体的なストレスレベルが減少します。

ヨガやストレッチによる筋肉の伸縮は、血流を改善し、酸素や栄養素の体内への供給を促進します。このような効果は、身体の各部への血液循環を良くし、全体的な身体機能を向上させます。また、定期的にこれらの活動を行うことで、身体の柔軟性が高まり、関節の動きがスムーズになり、筋肉の痛みや緊張が減少します。

さらに、ヨガやストレッチは心理的な健康にも寄与します。リラックスした呼吸は心を落ち着かせ、ストレスや不安感を和らげます。また、これらの活動に集中することで、日常の悩みから一時的に解放され、精神的な平和とリラクゼーションを体験することができます。このように、ヨガやストレッチは身体だけでなく心の健康にも良い影響を与え、全体的なウェルビーイングを向上させるのです。

STORES 予約 から予約する

トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2023-12-15
論考 井上陽平

コメント