ナルシシズムの心理的原因と特徴をネヴィル・シミントンの理論から考察

トラウマ理論

ネヴィル・シミントン(1937-2019)は、ナルシシズムの研究で特に著名なイギリスの精神分析医です。彼は、ナルシシズムを私たちの感情の成長と発達を妨げる最大の障害と捉えていました。一般的にナルシシズムは「自己愛」と結びつけられがちですが、シミントンの見解ではそれとは異なり、ナルシシズムはむしろ人間関係の世界から自分を閉ざしてしまうことに関連していると考えられています。

ナルシシズムは、痛みや恐怖に対する防衛反応として機能し、人生の非常に早い段階で形成されることが多いとされています。幼少期に感じた強い不安や恐れが引き金となり、外界との接触を断つことで自分を守ろうとするのです。しかし、この防衛メカニズムは他の防衛と同様、感情的および精神的な成長を阻害してしまう傾向があります。結果として、他者とのつながりや共感の能力が制限され、心の成長が停滞してしまうのです。

ナルシシズムの防衛機制:衝撃的体験に対する心の盾

ここでは、ネヴィル・シミントンのナルシシズム理論をもとに考えてみます。ナルシシズムは、戦慄の衝撃的体験に対する無意識の防衛反応として機能します。これは、心が耐えきれないほどの痛みや苦しみを感じることを避けるために、自動的に働くメカニズムです。この防衛組織は、恐ろしい痛みや不快な感情と直面することを無意識に回避しようとし、人々をそれらの感情から遠ざける役割を果たします。

例えば、過去に深い傷を負った経験や、自己存在感を脅かすような出来事があると、その衝撃から心を守るために、ナルシシズム的な防衛が発動します。この防衛は、痛みを感じること自体を拒否し、他者からの批判や拒絶を遮断するため、あたかも無敵のように振る舞うことが多いです。しかし、その裏側には、感じたくない痛みや恐怖が隠されています。

この防衛メカニズムは短期的には心を守ってくれるかもしれませんが、長期的には感情的な成長を妨げ、人間関係の中で深いつながりを築くことを難しくさせます。痛みや苦しみを感じないようにすることで、結果的に自分自身の感情にも他者の感情にも共感しづらくなり、孤立感を強めることになります。

現実を遮断する防衛:幻想の世界に閉じこもる心理

ナルシシズム的な障害を抱える人は、外の現実を遮断するかのように、自分自身の独自の世界観を築き上げる傾向があります。これは、現実の厳しさや不安に直面することが困難であり、心が脆弱な自己感覚を守ろうとする防衛反応として生じます。外的な現実が自分にとって脅威と感じられると、その現実を無視したり、自己都合で歪めたりして、自分にとって心地よい幻想的な世界に閉じこもるのです。

この独自の世界観は、外部の意見や現実的な事実を受け入れることを避け、自分の考えや感情だけに基づいて構築されます。結果として、他者との関係が歪み、現実との間に大きな溝が生まれます。ナルシシズム的な防衛は、外部からの批判や異なる意見を拒絶し、自分の内側の世界で安定を保とうとするものですが、その過程で本来成し遂げるべき成長や他者との深いつながりを避けることになりがちです。

この「現実の遮断」は、一見すると自分を守っているかのように感じられますが、実際には現実逃避にすぎません。長期的には、孤立感を深め、自己成長が停滞する結果を招く可能性が高いのです。他者とのつながりを断ち、現実に直面することを避けることで、自分の内面の真の問題に向き合う機会を失ってしまうのです。

ナルシシズムにある脆弱な心:見せかけの自信と内なる不安

ナルシシズムを抱える人は、しばしば自意識過剰な態度を取るように見えますが、実際にはその背後には内面的な脆さや不安が隠されています。自意識過剰な態度は、自己を守るための防衛反応として表れることが多く、その根底には、他者からの批判や拒絶に対する極端な敏感さが存在します。ナルシシズム的な人々は、自分が傷つきやすいと感じており、自己を守るために自己中心的な行動を取ることがよくあります。

一般的には、ナルシシズムは「自己を過剰に高く評価する」と考えられがちですが、実際にはその逆の側面が潜んでいます。ナルシシズムの核心には、「自分が自分であるという感覚の欠如」あるいは「自分には根本的な欠陥があるのではないか」という無意識の自己否定的な感覚が存在します。この不安を隠すために、外面的には自信に満ちた姿を装うことが多く、その結果、他者からは過度に自己愛的であると映ることがあります。

しかし、ナルシシズムの背後にあるのは過剰な自信ではなく、むしろ自己に対する深い不信感や不安です。この内的な不安を隠すために、ナルシシズムを抱える人はしばしば他者との距離を保ち、自分のイメージを守ることに全力を注ぎます。しかし、これによって他者との真のつながりや共感の機会を失い、結果として孤立してしまうことが多いのです。

敵意と不快感の背後にあるもの:ナルシシズムが生むトラウマ

ナルシシズムは、他者との関係において、敵意や嫌悪感、不快感がしばしば伴う特徴を持っています。ナルシシズムを抱える人は、他者との関係を築く際に、深いレベルで不安や脅威を感じることが多く、その結果、他者を拒絶したり、攻撃的な態度を取ったりすることがあります。

これは、他者を脅威とみなし、自分の内側の弱さや不安を隠すために、防衛的な反応として表れます。たとえば、他者からの批判や否定的な反応を極度に恐れるため、相手を先に否定することで、自分が傷つかないようにするのです。このようにして、ナルシシズムは他者とのつながりを拒絶し、自分を守るための壁を築く結果になります。

他者との関係において感じる敵意や不快感は、根底にあるトラウマから生じる自己不信や自己嫌悪によるものです。相手との関係を通じて、自分の欠点や不完全さが表面化することを恐れ、そのために他者に対して冷たくなったり、敵意を抱くことがあります。この防衛的な姿勢が、結果的に人間関係をより孤立させ、自己成長を妨げる要因となってしまうのです。

親密さを避ける理由:ナルシシズムが引き起こす孤立の心理

シミントンの理論をさらに展開すると、ナルシシズムが防衛反応として機能する背後には、人間関係における「親密さ」への恐れも大きな要因として考えられます。ナルシシズムを抱える人は、他者と深くつながることで自分の脆弱さが露呈するのを避けたいという無意識の願望を持っています。親密な関係は、他者に自分をさらけ出すリスクが伴い、特に過去に心的外傷(トラウマ)を抱えている場合、そのリスクは大きな脅威となります。この恐れがナルシシズム的な防衛をさらに強化し、結果として他者との距離を置き、孤立を深める一因となります。

また、ナルシシズムは自己完結的な世界観を築き上げるため、現実との接触を避け、自分の内面的な不安や恐れを見つめる機会を奪います。この自己防衛は、他者からのフィードバックや意見に耳を傾けることを拒絶し、結果として自己成長を阻害するだけでなく、他者とのつながりも断たれてしまいます。自己が成長するためには、他者との関わりを通じてフィードバックを受け入れ、内面の課題に直面することが必要不可欠です。しかし、ナルシシズムはそのプロセスを妨げ、成長の機会を奪ってしまうのです。

ナルシシズムの背後にある脆さと不安:真の自己成長への道

ナルシシズムは「自己を守るための感情的な鎧」として機能し、その鎧が人間関係を複雑にし、深いつながりを築くことを妨げているとされています。この鎧は、外からは自信に満ちた姿に見えますが、その背後には、自己の脆弱さや不安定さが隠されています。ナルシシズムが引き起こす孤立感は、こうした内面的な不安を隠すために、他者との距離を保ち、自分を守ろうとする防衛反応から生じます。

この脆弱さに直面することは多くの人にとって困難ですが、実際にはこの脆さと向き合うことが、本当の意味での心の成長への道です。自己防衛としてのナルシシズムは、一時的には心を守ることができるかもしれませんが、長期的には他者とのつながりを妨げ、自己成長を阻害してしまいます。人間関係の中で他者に心を開き、自分の脆弱さを受け入れることで、自己の成長とより深い人間関係が可能になります。

ナルシシズム的な防衛を乗り越えるためには、まず自分の内面に目を向け、恐れや不安と向き合う勇気が必要です。その過程で、自分が他者とどのように接し、どのような恐怖や不安を抱いているのかを理解することが、最終的には自己成長への鍵となるでしょう。このプロセスは困難ではありますが、それを乗り越えることで、より豊かな人間関係と自己理解が得られるのです。

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トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2024-10-24
論考 井上陽平

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