凍りつき反応(フリーズ)とは何か|トラウマの仕組み

凍りつき反応(フリーズ)とは、人間がトラウマに対応するための防衛反応の一つを指します。この状態は、脅威に対する一般的な反応としてよく知られる「闘争」や「逃走」が適応できない状況下で現れます。つまり、個体が脅威から逃げることが物理的に不可能であったり、反抗や抵抗が無意味または危険であると認識した場合にこの反応が起きます。

近年の研究により、この凍りつき反応がより広く認識され、その理解と応用が進んでいます。人間が危機状況に直面したときには、身体は自然と凍りついて、緊張性の不動状態に入る可能性があります。それは麻痺したような感覚で、狭い注意の焦点を特徴とし、息を殺して、動くことができず、反応が鈍くなることを意味します。

フリーズ反応は「止まる」だけではない──内側で起きていること

フリーズは外から見ると静止ですが、内側では「高い緊張」と「強い抑制」が同居しています。つまり、アクセル(交感神経系の動員)を踏みつつ、同時にブレーキ(強い抑制)も踏んでいるような状態です。だからこそ、体は動けないのに、内側では焦り・恐怖・震え・過緊張が渦巻き、終わった後に強い疲労や虚脱が出やすくなります。

また、フリーズが限界を超えると、意識がぼやけたり、現実感が薄れたり、「自分が自分でない」ような感覚が生じることがあります。これは防衛としての解離が絡むためで、フリーズと解離は臨床上しばしば連続した現象として観察されます。仕組みを先に押さえたい方は、解離の総合解説も参照してください。
https://trauma-free.com/dis/

特に、幼少期のトラウマに対する反応として、この凍りつきはよく見られます。子供たちは、心身ともに成長途中であるため、脅威に直面した時、闘争または逃走する力が不足している場合が多いのです。その結果、彼らの身体は、危険から自己を守るための適応策として、凍りつき反応を引き起こすことがあります。これは足がすくむという形で具現化されることが多く、子供がその場から動けなくなることを指します。この反応は、子供がトラウマの瞬間を無事に乗り越えるための、生存本能からくる防衛反応の一つと言えます。


愛着と恐怖の板挟み:養育者が脅威となる時、子供の防衛反応

養育者が子供にとって脅威となる場合、子供は非常に複雑で苦しい状況に直面します。通常、子供は愛情や安全を求めて養育者に近づこうとする本能的な反応を示します。これを「愛着システム」と呼び、子供が生存と安心を確保するための自然な行動です。しかし、同じ養育者が脅威となると、子供は危険を察知し、逃げ出すか戦う「闘争・逃走反応」を引き起こします。これは「過覚醒システム」として知られ、直接的な脅威から自己を守ろうとする本能です。

ここで生じる問題は、子供が二つの相反する本能に引き裂かれることです。一方では、子供は愛と安全を求めて養育者に近づきたいと願い、他方では、危険から逃れるために距離を取りたいと感じます。通常、これらのシステムは互いに補完的に機能しますが、養育者が愛情を与える存在でありながら脅威にもなる場合、子供の心の中で競合が生まれます。この矛盾は子供を深い混乱に陥れ、結果として「凍りつき状態」が引き起こされます。子供は何もできず、行動することが難しくなり、心と体が麻痺してしまうのです。

この凍りつき反応は、子供が脅威に対処し、生き延びるための防衛的な戦略です。しかし、この状態が続くと、長期的な心身のストレスが蓄積されることがあります。身体的には、筋肉の緊張や疲労が続き、精神的には恐怖や不安が慢性的な状態になります。このような状況に適応しようとする過程で、子供は適応障害や不安障害など、さまざまな心理的な問題を発症するリスクが高まります。

フリーズ反応が日常生活に残るときに起こる問題

フリーズが「危機の瞬間だけの反応」で終わらず、日常生活に残ると、本人の人生全体が“狭く”なっていきます。挑戦の場面だけでなく、会議、面談、恋愛、家族との話し合いなど、「言葉と自己主張が必要な場面」で固まりやすくなるからです。

さらに厄介なのは、フリーズが起きた瞬間の記憶が曖昧になりやすい点です。頭が真っ白になり、後から「あの場で何が起きたか」を思い出せず、自己評価が下がり、「自分はダメだ」という結論へ結びつきやすい。これは性格ではなく、危機反応がもたらす認知・注意の狭窄です。


セルフチェック:凍りつき反応が強い人に多いサイン

フリーズ傾向は「日常の小さな場面」にも出ます。以下に当てはまる項目が多いほど、神経系が防衛優位になっている可能性があります。

・強い緊張が来ると、声が小さくなる/言葉が出ない
・叱責・圧の強い人・早口の相手の前で頭が真っ白になる
・その場をやり過ごした後に、どっと疲れる/眠気・虚脱が出る
・呼吸が浅く、胸が固く、肩や顎に力が入りやすい
・予定が近づくほど身体が重くなり、準備に取りかかれない

ここで重要なのは、「当てはまる=弱い」ではなく、「防衛反応が働いてきた背景がある」という理解に置き換えることです。


複雑なトラウマによる凍りつき反応の理解

複雑なトラウマを抱える人々に見られる「凍りつき反応」は、心身の健康に深刻な影響を与えます。この反応は、身体的および精神的な症状を伴い、しばしば日常生活を大きく制限するものです。

まず精神的な面では、トラウマを持つ人々は常に強い警戒心を抱いています。過去のトラウマ体験が彼らの内面に恐怖や不安を根強く残し、これが日常の中でも自己防衛のために常時警戒を強いる原因となります。周囲の人や環境を「潜在的な脅威」と感じ、いつでも危険が襲いかかってくるのではないかという不安を抱えています。この過度な緊張は、人間関係や社会生活に深刻な支障をもたらし、孤立感や絶望感を生むこともあります。

身体的な反応としては、ストレスや不安が強くなることで、呼吸が浅く速くなることが挙げられます。これは身体が脅威に備え、素早く酸素を供給しようとする自然な反応です。また、心拍数の増加も見られます。これもまた、体がストレスに対処しようとする戦闘準備の一部です。こうした身体の変化は、日常的な疲労感や、特に休息が十分でないときに強く現れることが多く、体力の消耗を加速させます。

さらに、トラウマを持つ人々は、筋肉の過緊張や硬直といった症状も抱えることがよくあります。これは、体が「戦う」か「逃げる」準備をしている状態ですが、実際には行動に移せないためにエネルギーが体内に滞る結果を引き起こします。このエネルギーの不適切な循環が長期間続くと、持続的な疲労感や活力の低下、さらには慢性的な痛みや体調不良を引き起こすことがあります。


脅威に対する人間の生存戦略:凍りつき反応

私たちが直接的な脅威に直面すると、身体は瞬時に自己防衛のための一連の反応を起こします。これは人間が進化の過程で身につけてきた生存戦略の一環であり、特に低周波帯の音に敏感に反応することが大切です。このような音は、大型の動物の接近や地震などの自然災害と関連しているため、私たちの警戒心を強く刺激します。

低周波帯の音は、私たちに危険が迫っている可能性を知らせる警告信号のような役割を果たします。たとえば、地震の前兆や大型の捕食動物の接近などは、この周波数帯に含まれる音を伴うことが多いです。これにより、私たちは直感的に耳を澄まし、周囲の状況を分析し始めます。この音を聞いた瞬間、私たちの体は警戒モードに入り、危険から身を守るために準備を整えます。耳を最大限に活用することで、潜在的な危険を察知し、適切な防衛行動を取る準備ができるのです。

音だけではなく、身体の反応もまた重要な防衛手段となります。脅威に対峙したとき、私たちの筋肉は瞬時に硬直し、身体は「凍りつく」状態になります。これは、捕食者に対して動かないことで視認されにくくするための本能的な反応です。動かないことや、極端な場合には「死んだふり」をすることで、捕食者や敵が自分を無害な存在と見なす可能性が高まります。このような反応は、動物界でも広く見られ、私たち人間も同様に進化の過程でこのメカニズムを身につけてきました。

私たちの身体が発動するこれらの防衛メカニズムは、直感的かつ迅速に動作します。低周波音を聞き、身体が瞬時に凍りつく反応を見せることで、危険な状況から逃れるための最適な行動が導かれるのです。これらの反応は意識的な思考を介さずに起こるため、時間をかけて考える余裕がない状況でも即座に対処できるのが特徴です。

これらの生存戦略は、私たちが危険な状況を乗り越え、安全を確保するために重要な役割を果たしています。この直感的な防衛メカニズムは、私たちの祖先が過酷な自然環境で生き延びてきた知恵の結晶とも言えるでしょう。


絶望の中での成長:「凍りつく」経験から

複雑なトラウマが心身に与える影響は計り知れません。特に、その影響は身体的・精神的な反応として強く現れ、時に人を完全に無力にしてしまいます。トラウマによって引き起こされる恐怖の瞬間、身体は自動的に「凍りつき」、自分の意志とは無関係に完全な不動状態に陥ります。この時の無力感や絶望感は、あまりに強烈で、言葉で表現するのが難しいほどです。その衝撃は、まさに全身を支配します。

この「凍りつき」の反応は、ただの静止状態ではありません。体の内側では微細な振動が走り、寒さで震えるかのように鳥肌が立つ感覚が広がります。この震えは完全に制御不能であり、体を動かそうと試みてもその努力は全て無駄に終わります。全身の筋肉は警戒し、最終的には鋼鉄のように硬直します。この硬直状態が長引くと、筋肉の収縮が激しくなり、身体全体に痛みが広がり始めます。それはまるで体内から炎が燃え上がるような感覚で、その激痛は耐え難く、体が崩れ落ちるように痛みが全てを支配してしまいます。

この痛みは肉体的なものに留まらず、心にも強烈な影響を与えます。次第に、自分の感覚が薄れ、まるで自分が存在していないかのような感覚に陥ります。心は機能を失い、身体の状態すら正確に把握できなくなってしまうのです。このような状態に陥ると、心身は共に限界に達し、深刻なダメージを受けることになります。


凍りついた心と身体が解き放たれる瞬間

複雑なトラウマの影響を受けると、強い恐怖に圧倒され、身動きが取れなくなることがあります。この状態は、心が壊れたわけでも、感情が弱いわけでもありません。逃げることも抵抗することもできなかった状況で、神経系が生き延びるために選んだ「凍りつき(freeze)」という防衛反応です。

凍りつきが起きているとき、感情は言葉にならず、身体の内側にそのまま留まります。理由の分からない涙が出たり、胸が締めつけられたり、身体が重く感じられるのは、止められていた反応が完了できないまま残っているためです。目を閉じて現実から離れたくなるのも、これ以上刺激を受けないようにする、身体の自動的な調整反応です。

この状態が続くと、呼吸をすることさえ苦しく感じられるようになります。深呼吸をしようとすると、かえって不安や痛みが強まることもあります。それは、神経系がまだ「いまは安全だ」と判断できておらず、身体を開くこと自体が危険と結びついているためです。

周囲の状況が変わっても、凍りついた神経系はすぐには切り替わりません。目の前の出来事ではなく、過去の危険に合わせた反応が続き、世界が遠く感じられたり、現実感が薄れたりすることもあります。これは異常ではなく、防衛が解除されていない状態が続いているだけです。

しかし凍りつきは、永遠に続くものではありません。神経系が安全を感じ始めると、止まっていた反応は、微細な動きや感覚の変化として、ゆっくりとほどけ始めます。回復とは、この「凍りつきが自然に完了していく過程」を、妨げずに進めていくことです。


トラウマを癒すプロセスと新たな自己発見

凍りつきがゆるみ始めると、身体にはザワザワ、ピリピリ、落ち着かなさといった感覚が現れることがあります。じっとしていられない、理由もなく動きたくなるといった感覚も、その一部です。これは不安定になったサインではなく、止められていた防衛反応のエネルギーが、少しずつ戻り始めている状態です。

トラウマ状況では、本来起きるはずだった「逃げる」「踏ん張る」といった動きが完了しません。そのため回復の過程では、いきなり大きく動くのではなく、身体の内側で小さな試し運転のような反応が起こります。震え、微細な動き、落ち着かなさは、神経系が安全を確認しながら進んでいる途中反応です。

この段階で大切なのは、感覚を抑え込まないことです。我慢したり、評価したり、無理に落ち着かせようとすると、ほどけ始めた凍りつきが再び固まることがあります。必要なのは、大きな行動ではなく、「いまの身体の反応を止めなくていい」という小さな許可です。


凍りつきを緩めるための基本的な考え方

トラウマ反応のひとつである凍りつきは、「動けなかった」「固まった」という失敗ではありません。それは、これ以上の危険から身を守るために、神経系が選んだ最終的な防衛反応です。問題になるのは凍りつきそのものではなく、その反応が完了できないまま残り続けることです。

回復とは、無理に動かすことでも、力づくでほぐすことでもありません。神経系に「いまは安全だった」という新しい体験を、少しずつ残していくプロセスです。


なぜ「小さく・ゆっくり・途中で止められる」動きが必要なのか

トラウマ状態の神経系は、速い動き、大きな変化、逃げられない・止められない感覚に非常に敏感です。そのため、回復のための動きには明確な条件があります。小さいこと、自分で止められること、いつでも元に戻れること。この条件が守られてはじめて、神経系は安全を確認できます。

目的は「動くこと」ではありません。動いたあとに「何も起きなかった」「ちゃんと戻れた」という感覚を、身体そのものに学習させることです。


いま出来る「ちいさな動き」

① 足(もっとも安全な入口)
足は、身体の中で比較的安全を感じやすい部位です。つま先を1cmだけ動かして元に戻す、かかとに体重を少しだけ乗せて戻す、足指をぎゅっとしない程度に開く。このとき、床の硬さや温度、接触感に気づけたら十分です。「ちゃんと感じよう」とする必要はありません。

② 手・腕
指を1本だけ曲げて戻す、手のひらを太ももにそっと置く、肘を数ミリ浮かせて戻す。「これくらいでいいの?」と感じる強さが適切です。

③ 首・肩(不安が出やすい人は無理に行わない)
肩をほんの少し上げて下ろす、首を1度だけ左右どちらかへ向ける。違和感や不安が出たら、その時点で中止してください。


動いたあとの「立ち止まる時間」が回復を決める

動いたら、必ず止まります。椅子や床に支えられている感覚、身体の重さ、接触している場所を、5秒以上評価せずに感じます。この時間こそが、神経系にとって最も重要です。ここで身体は、「動いても大丈夫だった」「ちゃんと戻れた」という安全記憶を更新します。


回復は「静かな成功体験」の積み重ね

凍りつきがほどけるとは、劇的に変わることではありません。小さく、ゆっくり、いつでも戻れる。その繰り返しの中で、身体は少しずつ「もう戦わなくていい」「ここは安全だ」という感覚を取り戻します。今日できるのは、ほんの1cmの動きで十分です。それは、確実な回復の一歩です。


相談・カウンセリングの位置づけ:一人で抱えないための現実的な選択肢

凍りつき反応は、本人の努力で抑え込もうとするほど、逆に固定化しやすい特徴があります。なぜなら、防衛反応は「感じない・動かない」ことで生存を成立させてきた歴史を持つからです。回復に必要なのは、正論よりも、身体が安心できる関係とペースです。

「カウンセリング・心理療法・医療の違い」「どんな人が対象か」「受ける前に何を準備すればよいか」を整理したガイドを置いておきます。
https://trauma-free.com/treatment/counseling/


最後に:凍りつきは壊れた証拠ではなく生き延びた証拠

凍りつき反応は、あなたが弱いから起きたのではありません。あなたの身体が、逃げられない状況で命を守るために選んだ反応です。だから回復は、「過去を否定すること」ではなく、「いまの安全を身体が受け取れるようにすること」です。

もしこの反応が生活を狭め、仕事や人間関係、健康に影響しているなら、理解と支援によって変化は起こせます。フリーズは固定された性格ではなく、更新可能な生存反応です。あなたのペースで、少しずつ取り戻していけばよいのです。

相談室では、凍りつく(凍結反応)に関するカウンセリングや心理療法を希望される方に対し、ご予約いただけるようになっております。予約は以下のボタンからお進みいただけます。

STORES 予約 から予約する

【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
新刊『かくれトラウマ - 生きづらさはどこで生まれたのか -』
2026/2/26発売|Amazonで予約受付中
過緊張や生きづらさは、あなたのせいではなく、育った環境や親子関係の中で身についた生存の反応として残ることがあります。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。