複雑性PTSD(CPTSD)の人への接し方|悪化させない対応の基本

複雑性PTSD(CPTSD)を抱える人々は、過去に繰り返し受けた深い精神的な傷が、現在の日常生活にも強く影響を与えることがあります。
ストレスや緊張が常に強い状況に置かれ、些細な出来事でも過剰に反応してしまい、心が落ち着かず、何も楽しめない、そう感じる日が続くことがあります。

この過剰反応は、過去の脅威が現在の状況に投影され、無意識に危険や生命の危機を感じてしまうために起こります。
たとえ目の前に危険がない状況であっても、脳が誤って「危険だ」と判断し、過度な警戒をしてしまうのです。

このような状態にあると、日常の何気ない場面でも心が休まらず、頭の中では常に何かを考え続け、リラックスすることができません。
過去のトラウマが現在に及ぼす影響が大きく、無害な状況でも自動的に「危険」と見なされ、過度なストレス反応を引き起こしてしまいます。
このような生活は非常に苦痛で、毎日を安心して過ごすことが難しくなります。

本記事は、CPTSDと機能不全家庭で育った人(過適応・顔色読み・自己抑圧・家庭内緊張への常時備えが残りやすい状態)を念頭に、
過覚醒・トリガーを悪化させない「関わり方」と「環境の作り方」について載せています。

また、本人に「頑張れ」や「気にしすぎ」と言う前に、周囲ができる現実的な配慮と、支援者側の限界の守り方も含めて整理します。
優しさだけでは足りない局面がある一方で、正論は簡単に症状を悪化させ得る、その両方を踏まえた全体設計です。


Table of Contents

CPTSDの「過覚醒」とは何か:危険がないのに身体が警戒を解けない状態

人は危険を感じると、自律神経系が高度に活性化します。
具体的には、交感神経(アクセル)が優位になり、身体が戦闘態勢に入ります。
これが過剰になると、過覚醒や過緊張状態に陥り、心拍数や呼吸が増し、身体は常に緊張した状態になります。

複雑性PTSDを持つ人々は、些細な刺激でもこの反応を引き起こしやすく、恐怖や怒り、嫉妬などの感情が一気に高まります。
その結果、周囲の世界が変わって見え、冷静な判断ができなくなります。
「いま起きていること」よりも、「かつて起きた危険の型」によって、瞬間的に現実が塗り替えられてしまうのです。

ここで重要なのは、本人が「わざと過剰反応している」わけではないことです。
脳と神経系が、過去の危険をいまの出来事に重ねてしまい、危険がない場面でも「危険の手順」で反応してしまう。
この誤作動は、理屈で説得して止められるものではないことが多いのです。

CPTSDとPTSDの違いを、関わりの観点で押さえる

単発の出来事に由来するPTSDでは、特定の記憶や場面が中心になることが多い一方で、CPTSDは「長期反復の脅威」の影響が、
人格の基盤、身体の使い方、関係の前提にまで染み込みやすくなります。

そのためCPTSDでは、単に「思い出してつらい」だけではなく、
日常の中で常時警戒・常時緊張・常時自己監視が続き、疲弊が慢性化しやすい。
この慢性の負荷が、対人関係の不安定さ、自己否定、孤立感、楽しめなさへと連鎖していきます。

過覚醒が強まると起きること:感情が事実になり、現実が歪む

こうした状態では、自分の感情に支配されやすく、心の中で感じていることが事実であるかのように思い込んでしまいます。
場合によっては、不安や恐怖が現実の脅威として感じられ、妄想が膨らむこともあります。

このとき周囲が「違うよ」「考えすぎ」と正しにかかると、相手の身体には「否定された」「危険が増えた」と入ることがあります。
結果として、過覚醒がさらに上がり、関係も壊れやすくなります。
重要なのは、事実認定の勝負ではなく、まず神経系の火を下げる順番です。

機能不全家庭と慢性的過覚醒の心理構造について
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トラウマケアの基本:心に寄り添うための姿勢と配慮

複雑なトラウマを経験している人との接し方は、非常に繊細なものです。
彼らは過去の体験によって、現在の状況に不安や緊張を感じやすいため、安心感を提供するコミュニケーションが不可欠です。

まず大切なのは、落ち着いた姿勢で接することです。
ゆったりとした体の動きや、穏やかな表情は、相手に安心感を伝える効果があります。
急な動き、強い視線、詰め寄る距離は、それだけで「危険接近」として受け取られることがあります。

また、抑揚のある豊かな声で話しかけることも、彼らの緊張を和らげ、心を落ち着かせるために重要です。
声のトーンや話し方に気を配ることで、トラウマを抱える人が感じる不安感を軽減し、心の安定に繋がります。
内容の正しさよりも、まず声の質が「安全」を運びます。

特に、彼らの話に耳を傾けるときは、真剣に向き合い、共感を持って対応することが必要です。
トラウマを抱えている人にとって、自分の気持ちや過去の体験を話すことは、癒しのプロセスの一部です。
過去の出来事を言葉にすることで、感情の整理がつき、少しずつトラウマから解放されることがあります。
そのため、話すこと自体が回復に繋がる大切なステップです。

一方で、配慮が欠けた言葉や態度は、トラウマを引き起こす要因になりかねません。
例えば、きつい口調や嫌味な言葉、無関心な態度は、彼らの心に再び不安を呼び起こす可能性があります。
強い言葉や冷たい態度に敏感で、それが過去の痛ましい記憶を再現するきっかけとなることがあるのです。

さらに、彼らは音や環境の変化にも敏感です。
大きな音や騒がしい場所は、心臓を驚かせ、不安を増幅させる可能性があります。
静かで落ち着いた環境を提供することが重要です。

「安心感」を言葉で渡すときの基本姿勢

CPTSDの人が求めているのは、理屈の説明よりも、まず「安全の実感」です。
そのため、次の3点は一貫して守られる必要があります。

あなたのペースを尊重する。
いまは無理しなくていい。
私は急がせない。

この3点が、表情・声・距離・会話量のすべてに滲むとき、相手の身体に「危険が減った」が届き始めます。

トラウマインフォームドケアの主要原則について
https://trauma-free.com/trauma/traumacare/


過去の記憶が引き起こす反応:トラウマを抱える人への適切な対応

複雑なトラウマを抱える人々は、嫌悪刺激や不快な状況に遭遇すると、無意識のうちに「生き残るための反応」が自動的に引き起こされます。
これには、交感神経や背側迷走神経が過度に活性化することで起こる、闘争・逃走反応や、身体が凍りつく、あるいは死んだふりをするような反応が含まれます。

これらの反応は、過去に危険な状況を経験し、身体がその記憶を保持しているために発生するものです。
身体は再び危険が迫っていると誤解し、自分自身を守るために自動的に警戒態勢に入ってしまうのです。

このような警戒状態にあると、常に周囲の状況に敏感になり、身体は常に緊張しているため、精神的にも肉体的にも非常に疲れやすくなります。
過去のトラウマが身体に深く刻まれているため、現在の無害な状況でも過剰に反応してしまい、危険を感じやすくなってしまうのです。

トリガーになりやすい状況の例

例えば、人混みや狭いエレベーター、背後に人がいる状況などが、過去の危機的な体験を想起させることがあります。
これにより、心臓が激しく鼓動し、呼吸が乱れ、身体が震えるといった反応が無意識のうちに引き起こされることがよくあります。
このような身体反応は、意識的に制御できるものではないため、非常に困難で苦しいものとなります。

また、彼らは音にも非常に敏感です。
人の大声や、食べ物をくちゃくちゃと噛む音、子どもの叫び声、犬の吠える声、工事の騒音、ドアの大きな音など、日常生活の中にあるさまざまな音が、神経を逆撫でし、苛立ちや恐怖感を引き起こすことがあります。
過去の体験により、これらの音が脳に刻み込まれたトラウマのトリガーとなってしまうのです。

配慮がないと何が起きるか

もし、これらの配慮がなされない場合、彼らは体調を崩したり、強いストレスを感じることで気持ちが沈んだり、苛立ちが増す可能性があります。
周囲が知識を深め、状況や音が負担になることを把握し、回避や調整をしていくことが大切です。

「トリガーを避ける」だけでなく「回復の余白」を作る

トリガーを完全に排除することは現実には難しいことも多いです。
だから重要になるのは、刺激が起きた後に戻れる「余白」を用意することです。

静かな場所に移動できる。
会話を止めても責められない。
その場から離れても関係が壊れない。
この3つがあるだけで、本人は「逃げても大丈夫」という安全策を持てます。

安全策がある人は、同じ刺激に対しても反応が小さくなりやすい。
反応の強さは、刺激そのものだけでなく、「逃げ道があるか」で大きく変わるからです。

驚愕反応とは?神経に及ぼす影響と日常生活への影響について
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複雑なトラウマを持つ人々へのサポート:自然体で接する重要性

複雑なトラウマを抱える人々は、心に深い孤独感や不安感を抱えています。
そのため、彼らは一緒に過ごせる安心できる存在や、心を許せる相手を求めています。

しかし、トラウマを持つ人の心を癒すのは他者ではなく、最終的には彼ら自身の力が必要です。
だからこそ、支援者は無理に問題を解決しようとせず、ただ寄り添い、穏やかにサポートする姿勢が大切です。

支援者が相手を助けようと全力で動くと、支援する側のエネルギーが尽きてしまうことがあります。
彼らの問題を解決することは支援者の役割ではありません。
むしろ、彼ら自身が少しずつ自己理解を深め、癒しに向かって歩み始めるまで見守ることが大切です。

そのため、支援者は自分自身を大切にし、無理をせず、自分の限界を把握しながら接することが重要です。
できることを無理なく行い、できないことは無理にしない。
それが、双方にとって健全な関係を築く秘訣です。

また、トラウマを持つ人は、新しい状況に対して非常に敏感に反応します。
接する際には彼らのペースを尊重し、急かすような行動やストレスを与える行為を避ける必要があります。

さらに、無理に何かを「解決」しようとするのではなく、自然体で接することが大切です。
自分自身を幸福にし、自分の好きなことを楽しむ姿を見せることで、相手も「自分を大切にすること」を学びます。
趣味やリラクゼーション、好きな人と過ごす時間など、日常の中で自分自身を癒す方法を実践することが、相手にも伝わるのです。

瞑想、ヨガ、ソマティックエクスペリエンス、カウンセリング、音楽療法、マインドフルネスなど、心と体をリラックスさせる手法も、癒しに効果的です。
これらの手法は、自己と向き合い、心の奥にある感情を整理する手助けとなります。

信頼関係は、ゆっくりと時間をかけて築くものです。
焦らせず、じっくりと信頼を育てる姿勢が求められます。

支援者が「自然体」でいるために必要な境界線

CPTSDの支援で破綻しやすいのは、支援者が「全部引き受けよう」としてしまう局面です。
相手が苦しんでいるほど、助けたくなるのは自然です。
しかし、その「全力」が相手にとっては圧力になることもあります。

あなたのために、今すぐ変わって。
私の言うとおりにやって。
そういう温度が少しでも混ざると、CPTSDの身体は反射的に身構えます。
過去の支配や過干渉の記憶と、重なってしまうからです。

支援者は、相手の人生を代わりに背負わない。
代わりに「安全な関係の器」を維持する。
この役割分担が、長期的には最も回復を支えます。

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トラウマを抱える人々との信頼関係を築くためのコミュニケーション術

トラウマを抱える人々は、多くの場合、自分が経験した痛みや苦しみを理解してもらえないと感じています。
「自分の話は誰にも分かってもらえない」と思い込むと、感情を押し殺し、孤立が深まります。

しかし、思いやりや共感を示されると、徐々に心を開き、少しずつ過去の体験について話せるようになる可能性があります。
優しさや気遣いを感じることで、痛みを共有する勇気が生まれ、感情を解放する機会を得るでしょう。

一方で、無神経な言葉や、感情を軽視した態度は再び傷つく要因となります。
「理解されない」という感覚が強まるほど、回復への道は遠のいてしまいます。

また、過度の緊張状態にあると、一方的な質問や急かす接し方は、彼らを圧倒し、疲弊させます。
複数のことを同時に処理する余裕がなく、急に多くの情報を求められると混乱し、どう対処すべきか分からなくなることがあります。

さらに、相手のペースにのみ込まれる状況では不信感を募らせることがあります。
「本当に聞いてくれているのか」と疑い、置き去りにされた感覚が嫌悪感に変わり、距離を置こうとすることもあります。

重要なのは、時間をかけて自分のペースで話す機会が与えられることです。
急かさず、思いやりを持って耳を傾けることが不可欠です。

「共感」と「同意」を分ける

支援者が誤解しやすい点として、共感は「相手の感じている現実」を尊重することであって、
すべての解釈に同意することとは違います。

怖かったんだね。
いま身体が危険だと感じているんだね。
その状態で話すのはつらいよね。

こうした言葉は、相手の神経系を落ち着かせる方向に働きます。
一方で、すぐに「相手が悪い」と結論づけたり、白黒を決めたりすると、関係は短期的にまとまっても、長期的には反復を生みやすくなります。

まずは鎮火。
そのあとに整理。
この順番が、トリガー悪化を防ぐ基本です。

質問は「少なく」「短く」「選択肢で」

過覚醒が高いとき、長い質問は処理できず、焦りを増やします。
そこで、質問を「短い選択肢」にします。

いま、話したい? それとも静かにしたい?
ここにいたい? それとも移動する?
水を飲む? 何もしない?

この形にすると、本人は「主導権」を感じられます。
主導権は、CPTSDにとって最大の安全要因の一つです。

ptsdの人にかける言葉と接し方:心を支えるコミュニケーションの方法
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トラウマを抱える人が安心できるコミュニケーション環境とは?

トラウマを抱える人々は、外部の刺激や気配に非常に敏感で、周囲の情報を常に警戒しています。
そのため脳は常に過剰に働き、情報処理能力が限界を迎えることがあります。

一度に多くの情報を処理することが難しく、頭の中が「容量オーバー」になってしまうことも少なくありません。
新しい情報が入ってきても保持したり処理したりするのが困難になり、会話の中で混乱した言葉やまとまりのない思考が現れることがあります。

こうしたとき、話す速度や量を調整し、理解し消化する時間を確保することが必要です。
単純で明確な言葉を使うことで、情報をよりわかりやすく伝えることができます。

不安そう、焦り、混乱が見られる場合は、会話のペースを落としてゆっくり話すことが有効です。
無理に進めようとせず、待つことも重要です。

ただし、ただ待つだけでは問題が解決するわけではありません。
過度に待たせることも不安を増やす場合があります。
相手のペースに寄り添いながらも、必要なタイミングを見計らって会話を進める柔軟さが求められます。

「安心できる環境」の具体条件を、生活に落とす

安心できる環境とは、抽象的な優しさではなく、具体的な条件の束です。

音が少ない。
視線が刺さらない。
背後を取られない。
逃げ道がある。
急かされない。
沈黙が許される。

この条件が揃うほど、本人は「いまここ」に戻りやすくなります。
逆に、条件が崩れるほど、反応は強まりやすいのです。

会話を続けるより「環境を整える」ほうが効果的な局面

CPTSDの過覚醒が高いとき、正しい言葉を探すほど逆効果になることがあります。
その場合、会話より先に環境調整を行います。

静かな場所に移る。
照明を落とす。
人混みから離れる。
話題を止める。

「言葉で落ち着かせる」のではなく、「刺激を減らして自然に落ち着ける」状態を作ります。
これが、トリガー悪化を防ぐ実務です。


トラウマの背後にある本当の姿を理解する:子どもの頃の傷を癒す支援

複雑なトラウマを経験している人々の多くは、幼少期に親からの虐待やネグレクトを受けたり、家族の中で苦痛を感じながらも耐え続けなければならない状況に置かれてきたことがあります。

「いい子」でいることを強いられ、自分の本当の感情を抑え込み、周囲に合わせて偽りの自分を演じてきた結果、どこかで燃え尽きてしまうことがあります。
このような過去が原因で、自己調整能力が失われ、感情をうまくコントロールできなくなることがしばしばあります。
結果として、認知が歪み、不適応な行動を取ることもありますが、それは彼らの深い傷から生じる自然な反応です。

内心では冷静に適切な行動を取りたいと望んでいるのに、行動がうまくいかない。
その度に自己嫌悪が増し、自己を責める悪循環に陥ることがあります。

そして、周囲が不適応な行動をその人の「本来の姿」と誤解してしまうことが、本人にとって大きな苦痛になります。
だからこそ、言動の背後にある理由を理解することがとても重要です。
それは、子どもの頃に何度も脅かされ、生き残るために身につけた防衛反応であり、その根底には深い恐怖と苦しみが存在しています。

また、過去に懸命に頑張ってきた部分や、今もなお持ち続けている良い面に目を向けることが大切です。
症状ではなく、その奥にある本当の姿に目を向けることで、自己受容へ向かいやすくなります。

アダルトチルドレンの文脈で起きやすい「誤解」をほどく

アダルトチルドレンの多くは、過去の環境適応として、
相手の機嫌を読む。
自分の気持ちを後回しにする。
衝突を避ける。
役に立つことで居場所を作る。
こうしたやり方を身につけてきたことがあります。

その結果、大人になってからも、
安心したいのに緊張が抜けない。
対等な関係ほど怖い。
親密になるほど不安が上がる。
小さな違和感で心が崩れる。
こうした反応が出ることがあります。

この反応は「性格の問題」ではなく、過去の生存学習の残響です。
関わる側は、その前提を共有して初めて、適切な距離と速度を選べます。


トラウマを抱える人々が安心できる居場所を作るために必要なこと

複雑なトラウマを経験した人々は、過去の危険な出来事が脳に深く刻み込まれており、常にその記憶が彼らを支配しているように感じられることがあります。
頭の中では警報が鳴り続け、いつ危険が訪れるか分からない感覚から逃れられない。
こうした状態が長期間続くと、心身ともに疲れ果て、自律神経が大きく乱れ、パニック発作や体調不良を引き起こしやすくなります。

このような人々にとって何より大切なのは「安全な場所」です。
安心できる環境を提供することが回復の第一歩になります。
穏やかな空間は、警戒を解き、過剰反応から脱却するために重要です。

どれほど気を配っても、トリガーに反応して発作が起こることもあります。
その場合、周りが慌てないことが大切です。
静かな場所に移す、声をかけすぎずにそっと寄り添うなど、相手のペースに合わせた対応が必要です。

信頼できる人がそばにいることは、安心感の回復に大きく貢献します。
理解と支援があると、少しずつ回復への道を進めることができます。

居場所とは「好意」ではなく「条件」

CPTSDの人にとって居場所は、誰かが優しいかどうかだけで決まりません。
優しい人でも、条件が悪ければ反応は起きます。

予測可能性がある。
急な変更が少ない。
反応しても責められない。
距離を取っても関係が続く。
これらが揃って初めて、居場所は「身体で安全」になります。

発作が起きたときの基本動作を、あらかじめ共有する

発作が起きたときに、その場で「どうする?」と詰めると、さらに混乱します。
事前に、次の流れを共有しておくことが有効です。

まず静かな場所へ移動する。
話しかけすぎない。
水分や呼吸の余白を作る。
落ち着いたら短い選択肢で確認する。

この「型」があるだけで、本人は恐怖の中でも戻る道筋を持てます。

過呼吸時の対応:ベストな選択を考える
https://trauma-free.com/hyperpnea/


安心できる空間とサポート:トラウマサバイバーが安らげるための工夫

リラックスできる音楽を流す。
部屋の温度や照明を調整する。
アロマの香りでリラクゼーションを促す。
こうした工夫は、安心できる環境を作り出し、心身のリラクゼーションに役立ちます。

また、信頼関係を築きながら話し合うことが大切です。
トラウマを抱える人は感情を表現できず、押し殺してしまうことがあります。
穏やかで信頼できる環境で、話したいと感じたときに耳を傾け、共感しながら対話を進めることで、負担が軽くなることがあります。

落ち込みが強いときは自然に触れることも心の癒しに繋がります。
海へ出かけて波の音を聞く、空を見上げる、静かな場所を散歩する。
ただ一緒に自然を感じる時間が、安心感を育てることがあります。

そして、プロフェッショナルな心理カウンセリングも非常に効果的です。
専門家の支援を受けることで、感情を整理し、回復への道を進めることが可能になります。

「安心できる空間」を家庭・職場・外出先で再現する

家庭では、音源やテレビの音量、生活動線、背後を取らない座り方など、細部の調整が効きます。
職場では、急な呼び出しや詰問調の確認が、過覚醒を跳ね上げることがあります。
外出先では、人混みやエレベーターを避けられるルート、途中で休める場所を先に確保します。

このように、環境は一つではなく、生活場面ごとに再設計されます。
「本人が弱いから配慮が必要」ではなく、神経系が過去の危険に反応している以上、環境の再設計は合理的な支援になります。

回復手法を勧めるときに、トリガーを踏まない

瞑想、ヨガ、マインドフルネスは有効な一方で、
人によっては身体感覚に入った瞬間にフラッシュバックが起きることもあります。

だからこそ、勧め方が大切です。
いきなり深い内観へ誘導せず、まずは安全な行為から始めます。

歩く。
手を温める。
目線を外す。
水を飲む。
こうした小さな行為が、「今ここ」を回復させる足場になります。

トラウマの治し方・克服する方法―凍りつきと過覚醒から回復していくために
https://trauma-free.com/treatment/recovery/


トラウマを抱える人たちが安心して生きられる社会づくりの道

CPTSDの人にとって、社会との関わりは大きな精神的負担となり、「壁」になりやすいことがあります。
トラウマは対人関係や社会参加を難しくし、孤立感や不安感を強めます。
社会全体でトラウマに対する正しい理解を深め、受け入れられる環境やシステムを整えることが不可欠です。

まず、トラウマに関する正確な知識の普及が重要です。
戦争や災害だけでなく、虐待、いじめ、ネグレクト、性的暴力など個人的な出来事が引き金になるケースも多い。
理解が広がれば偏見や誤解が減り、安心して暮らせる社会に近づきます。

次に、支援制度や社会システムの整備です。
経済的困難に対する助成金や福利厚生制度は、生活の安定を支え、回復の時間と環境を確保します。
職場や学校、地域社会で研修や啓発活動を行い、周囲が適切な対応を取れるようにすることも重要です。

さらに、心理カウンセリングやグループセラピーだけでなく、職業訓練や就労支援などのプログラムも役立ちます。
包括的な支援が整うことで、安心して社会と関われる土台が生まれます。

「社会の側が学ぶ」ことで、本人の回復負担が減る

CPTSDの人は、症状そのものに加えて、
誤解される。
甘えと言われる。
過剰反応だと嘲られる。
説明を求められる。
こうした二次的負荷を背負いやすい。

社会の側が基本を学び、最低限の配慮が標準化されると、本人は説明や防衛にエネルギーを奪われにくくなります。
結果として、回復に使える余力が増えます。


場面別に見る「悪化させない対応」―家庭・恋人・職場

ここからは、環境刺激・音・質問量・ペース・発作対応・自然体・支援者の限界を土台に、
実際の生活場面で「どこが地雷になりやすいか」を厚くします。

家庭:小さな音と視線が、神経を削る

家庭は本来、最も安全であるべき場所です。
しかしCPTSDの人にとっては、家庭ほど刺激が多いことがあります。

食べ物をくちゃくちゃと噛む音。
ドアの大きな音。
急な呼びかけ。
背後からの気配。
この一つ一つが、身体の警報を押します。

家族ができることは、正論で黙らせることではなく、刺激を減らすことです。
音量を下げる。
声を張らない。
背後から話しかけない。
これだけで、日々の消耗が変わります。

恋人:親密さが増えるほど不安が上がるとき

CPTSDとアダルトチルドレンの文脈では、
近づくほど安心するのではなく、近づくほど不安が上がることがあります。

嫌われたかもしれない。
見捨てられるかもしれない。
支配されるかもしれない。
こうした予期が身体に走ると、相手の一言が「攻撃」に聞こえることがあります。

この局面で恋人が「説明して」「何が嫌なの?」と詰めると、容量オーバーになりやすい。
まず必要なのは、距離の再調整と沈黙の許可です。

いまは話さなくていい。
落ち着いたらで大丈夫。
離れても関係は壊れない。
この前提が、トリガー悪化を防ぎます。

職場:詰問調の確認と急な変更が、過覚醒を増幅する

職場では、急かされる。
突然呼ばれる。
強い口調で確認される。
この3つが引き金になりやすい。

また、周囲の大声、工事の騒音、犬の吠える声、子どもの叫び声など、環境音も積み重なります。
本人は「我慢しているつもり」でも、身体はすでに限界に近づいていることがあります。

上司や同僚ができる対応は、難しい配慮ではありません。
要点を短く。
選択肢で。
急がせない。
説明より先に、落ち着ける余白を作る。
これが最も再現性が高い支援になります。


発作・フラッシュバック・強い不安が出たときの対応

どれほど配慮しても、トリガー反応が出ることはあります。
重要なのは、出た瞬間に「正しい対応」ができるかどうかではなく、
悪化の連鎖を止められるかどうかです。

まずやるべきこと:慌てない、詰めない、増やさない

慌てると、相手の身体は「危険が増えた」と判断します。
詰めると、相手は「逃げ道がない」と感じます。
情報を増やすと、容量オーバーが進みます。

静かな場所に移す。
声を落とす。
短い言葉にする。
これが基本です。

声をかけるなら「安全を運ぶ言葉」を短く

いまここにいるよ。
危険はないよ。
急がなくていい。
大丈夫、待てるよ。

長い励ましよりも、短い安全の宣言が効くことがあります。
言葉の内容よりも、声の質と速度が重要です。

落ち着いた後にやること:整理は「あとで」

落ち着いた直後に原因究明を始めると、再点火することがあります。
まずは、水分、休息、環境の回復です。

そのあとで、
どの音がきつかったか。
どの場面が苦しかったか。
次はどうするか。
を短く確認します。

この「あとで」の徹底が、関係を守ります。

フラッシュバックの対処法について
https://trauma-free.com/trauma/flashback/


支援者が燃え尽きないためのセルフケアと限界の守り方

支援者が疲弊すると、声が硬くなり、動きが速くなり、焦りが増えます。
それは本人にとって刺激になります。
つまり支援者のセルフケアは、本人への支援の一部です。

無理に聞き続けない。
寝不足のときは深い話をしない。
限界の前に休む。
距離を取ることを悪としない。

この姿勢が、長期的な関係を維持します。

また、支援者は「相手を変える責任」を背負わないことが重要です。
代わりに、関係の器を整え、環境の条件を整え、必要なら専門家につなぐ。
それが、現実的で強い支援です。


CPTSDの人に必要なのは「正しさ」ではなく「安心が壊れない関わり」

複雑性PTSDを抱える人々は、過覚醒・過緊張や、凍りつき・死んだふりのような反応が、日常の些細な刺激で立ち上がることがあります。
音や気配、環境の変化、質問の多さ、急かし、冷たい態度は、トリガーとなって反応を増幅させやすい。

だからこそ周囲ができる最も重要な支援は、
落ち着いた姿勢、穏やかな表情、声のトーン、遮らない聴き方、情報量の調整、静かな環境づくり、そして支援者側の限界を守ることです。

「無理しなくていい」という安心感が、言葉だけではなく体験として積み重なるとき、
トラウマサバイバーは少しずつ自分を取り戻し、回復への道を歩み始めることができます。

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【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
新刊『かくれトラウマ - 生きづらさはどこで生まれたのか -』
2026/2/26発売|Amazonで予約受付中
過緊張や生きづらさは、あなたのせいではなく、育った環境や親子関係の中で身についた生存の反応として残ることがあります。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。