精神分析は、19世紀の終わりにオーストリアの医師ジークムント・フロイトによって創始された心理学の理論と治療技法です。フロイトは、人間の心には意識と無意識の2つの領域があると考えました。そして、無意識には性的な欲求や幼児期の経験が影響していると考え、現在の問題の原因は過去にあると主張しました。
フロイトは、無意識を明らかにするために、クライエントが横になって自由連想するセッションを行うことを提案しました。このセッションは、カウチ(寝椅子)に横になって行われるため、フリースタイルで自己の内面を表現できるとされ、無意識にアクセスするための有効な手段となりました。精神分析は、その後、フロイト以降の心理学者たちによって発展し、現代でも広く使われている心理療法の一つです。
自由連想法や夢分析
フロイトの精神分析においては、患者さんが自分自身を理解することが最も重要な目的のひとつとされています。フロイトは、人間のこころには無意識があり、人間の行動や思考に影響を与えると考えました。そして、患者さんが自分自身の無意識を理解することで、自己成長や健全な精神を得ることができると考えました。具体的には、患者さんが自由に話し、思いつくままに言葉を述べることで、患者さんの無意識下にある内容を引き出す方法です。また、夢分析も精神分析の重要な手法の一つであり、患者さんが見た夢を分析することで、患者さんの無意識下にある内容を明らかにすることを目的としています。
精神分析の設定
精神分析には、長期にわたる治療期間が必要であり、一般的に数年から数十年にわたることもあります。また、治療は週に1回以上行われ、しばしば毎日のセッションが必要とされることもあります。精神分析は、その治療期間や手法が他の治療法と比較して非常に長期かつ費用が高いことから、一部の患者さんにしか適していないとされています。
内的世界への旅
精神分析は、過去のトラウマや心の傷を抱えた人が、自分自身に気づき、無意識下に抑圧された領域に触れることを可能にします。精神分析療法においては、患者さんが自由に話し、心の奥底に埋もれていた真実を意識上に思い起こしていくことが求められます。このようにして、患者さんは自分自身の内的な世界に目を向け、自己成長を促すことができます。分析家は、患者さんが無意識の領域に触れ、そこから出てくる感情や思考を分析し、患者さんが自己理解を深めることを支援します。
治療への抵抗
トラウマを経験した患者さんは、過去の出来事によって引き起こされる無意識的な不安や苦しみを経験しているため、精神分析療法においては、そのトラウマに直面することが必要不可欠です。患者さんは、自分自身を受け入れ、過去の出来事を向き合うことになりますが、これは痛みを伴う作業であり、しばしば強い抵抗が出ます。特に、トラウマを経験した人は、それを引き起こした出来事を忘れたいという強い欲求を抱いているため、過去の出来事を語ることに抵抗を感じます。また、密室の中でのやり取りに不安を感じたり、カウチに横たわって無防備な姿勢でいることが怖かったり、自分の罪を告白することから逃げたくなったりします。
痛みが伴う作業
精神分析療法では、患者さんが過去のトラウマ体験について語り、自分自身を理解することを目的としています。しかし、そのプロセスは痛みを伴うことがあり、患者さんがカウチに横になって自由連想していくと、思いがけない記憶や感情が引き出されてくることがあります。このような状況に直面すると、トラウマを経験した人は、切迫した状況にあると感じてパニックや過呼吸、金縛り、恐ろしい不安が身を包み、狂気が迫ってくることに対抗しなければならなくなります。
分析家とも戦う
精神分析療法では、患者さんはカウチ(寝椅子)に横たわって目を閉じ、分析家に自分の内的世界を探索する手助けをしてもらいます。しかし、このプロセスを行う過程で、患者さんは自分自身に正直に向き合わなければならず、自分が否定してきた部分を受け入れることが必要になります。また、分析家の解釈に対しても抵抗しなければならず、自分自身を守る力を備えている必要があります。
大いなるものに身を委ねていく
そのようなプロセスを通じて、患者さんは自分を脅かしてくる過去のトラウマから自由になることができます。しかし、患者さんは、自分自身を犠牲にしてまで、過去からの影響から解放されることを決断しなければなりません。患者さんは、分析を継続するのか、抵抗するべきかを悩みます。また、もと来た道に戻るか、全ての身を委ねるべきかを悩みます。それでも無防備になりながら、自分の内的世界を探索することができれば、新しい視点を得たり、過去の経験に対しての新たな気づきを得たりすることができます。精神分析療法は、患者さんが自分自身を取り戻すための旅であり、新しい可能性を見つけることができる手段となるのです。
詩や物語を織りなす
精神分析を受ける患者さんは、自分自身に向き合い、内的な世界を探求することを目的としています。このプロセスの中で、患者さんは自由に話し、思い浮かべたことを言葉にして、時には詩や物語を織りなしていきます。もし浮かんでこない場合は、立ち止まって待ちます。そして、やがて詩が完成し、分析家とともに旅を続けていきます。
転移性治癒
精神分析では、陽性の転移感情と呼ばれる、分析家への肯定的な感情が高まることで、患者さんのトラウマ症状が和らぎ、恐怖感が軽減されることがあります。これを転移性治癒と呼びます。患者さんは分析家の良い部分を取り入れ、自分自身を受け入れ、自己成長を促すことができます。この過程は、患者さんにとって新しい経験となり、新たな変化をもたらすことがあります。
精神分析への批判
精神分析には、批判が多いという一面がありますが、その中には古くなったものや無意味なものも含まれているとされています。しかし、自由連想法は、西洋の瞑想として非常に有用な技法であるとされています。さらに、トラウマに対する経験があり、患者さんが分析家に向ける転移感情を理解できれば、精神分析は非常に有効な技法になると考えられます。精神分析の問題点は、週に何回も通院が必要なことや、経済的・時間的負担があることなどです。しかし、当相談室では、トラウマに焦点を当てた精神分析的療法を提供しています。
トラウマケア専門こころのえ相談室
公開 2022-12-30
論考 井上陽平
