引きこもり・不登校の原因と対策―心理的ストレスと動けなくなる心身の仕組み

引きこもりや不登校は、「外に出たくない」という好みの問題ではありません。外の世界に向かうことが、本人にとっては恐怖のトリガーになっていることがあります。出かけようとした瞬間に胸がざわつく、体が重くなる、頭が真っ白になる、呼吸が浅くなる――そういう反応が先に立ち上がり、「行く/行かない」を意思で選ぶ余地が消えていく。

ここで重要なのは、本人が“怠けている”のではなく、心身がすでに過負荷の状態にあるという点です。学校や職場に行くという行為は、単なる移動ではなく、「評価」「比較」「視線」「対人調整」「失敗の可能性」など複数の負荷を同時に背負うことになります。負荷が積み重なるほど、外界は“刺激”ではなく“脅威”として知覚されやすくなり、回避は自然な防衛になります。

また、家にいれば落ち着けるはずなのに、実際には家の中でも緊張が抜けない人がいます。安全なはずの場所で休めないのは、外の問題というより、神経系がまだ「緩んでいい」と判断できていないからです。慢性的に警戒が続くと、休むこと自体に罪悪感が混ざったり、何もしない時間に不安が噴き上がったりして、家の中でも消耗が起こります。
この状態は「休めない体質」ではなく、過去の環境で緊張を維持する必要があった結果として起こり得ます: https://trauma-free.com/hyper-tension-nervous-system/


不登校・引きこもりの社会的隔離と警戒心

引きこもりが長引くほど、本人の中では「社会は危険かもしれない」という仮説が強化されていきます。ここで言う危険とは、暴力や事件のような極端なものだけではありません。
「否定される」「笑われる」「責められる」「空気を読み損ねる」「期待に応えられない」――そうした体験が積み重なっていると、対人場面はそれ自体が強いストレス源になります。

本人の警戒は、たいてい外からは見えにくい形で出ます。会話中に相手の表情の微細な変化を読み取り続ける、沈黙が怖くて言葉を詰め込む、逆に頭が止まって固まる、帰宅後にどっと疲れて寝込む。こうした反応は「気にしすぎ」ではなく、過去の経験に基づいた生存戦略になっていることがあります。

さらにややこしいのは、本人が支援や好意すら「怖い」と感じるケースです。助けが必要なのに、手を差し伸べられるほど体が引いてしまう。これは矛盾ではなく、「近づいたところで傷ついた」「頼ったところで裏切られた」という記憶があると、親切さが安全の合図にならず、むしろ警戒を上げるスイッチになるためです。
この“受け取れなさ”は性格ではなく、防衛の結果であり、解離などの防衛とも接続します: https://trauma-free.com/dissociation-defense/


見えない心の傷を抱えて:社会との接触が困難になる理由

深い心の傷を抱えている人ほど、外からは「普通に見える」ことがあります。人前では笑顔を作れる。受け答えもできる。最低限はやれてしまう。けれど、その内側で起きているのは、常に神経系が働き続ける“消耗戦”です。
「普通を演じる」ことに必要なエネルギーが大きすぎると、ある日、限界が来ます。

特に、発達特性やトラウマが絡むと、環境から入ってくる刺激が過剰になりやすい。教室やオフィスの音、光、人の声、視線、予定変更――それらが一つずつは小さくても、合計すると大きな負荷になります。すると、体は「危険が続く」と判断し、過緊張を維持しようとします。逆に、負荷が限界を超えると、体が止まる・動けなくなる・ぼーっとする・頭が入らないといった形で“遮断”が起きることもあります。

そして、心理ストレスは身体へ出ます。朝起きられない、腹痛、吐き気、頭痛、動悸、倦怠感――これは気合いの不足ではなく、心身が過負荷を知らせる信号です。
ストレスが身体化する文脈は、以下の記事ともつながります:

さらに、役割に合わせ続けることで「棒人間化」が進むことがあります。期待に応えるほど自分の輪郭が薄れ、何が好きか、何が嫌かが分からなくなる。これは怠惰ではなく、適応の代償として起こり得ます。過剰適応の視点はここに接続: https://trauma-free.com/overadaptation/


思春期の自意識過剰はなぜ起こる?感覚過敏と孤立のリスク

思春期は、自己意識と他者意識が急速に発達する時期です。「どう見られているか」を意識するのは自然な発達過程ですが、そこにトラウマや発達特性が重なると、視線や評価が“刺激”ではなく“脅威”に近づくことがあります。

とくに感覚過敏が強い場合、学校は構造的に厳しい環境になります。音が多い、予測不能な接触がある、集団の空気が変化する、休める場所が少ない。こうした条件が揃うと、本人は毎日「耐える」ことで登校している状態になり、あるタイミングで折れます。
音の過敏さはここに接続できます: https://trauma-free.com/sound-hypersensitivity/

孤立は一時的に安心を作ります。誰にも見られない、評価されない、調整しなくていい。だからこそ引きこもりは“楽をしたい”からではなく、過負荷の回避として選ばれます。
ただし、長期化すると社会的スキルや自信が細り、孤独感が強まりやすい。ここは「孤独」の記事へ導線: https://trauma-free.com/loneliness/


学校や職場が“戦場”に?対人関係トラブルとトラウマの影響

対人関係で一度強い痛みを経験すると、学校や職場は“危険地帯”になります。周囲が敵に見える、誰かが自分を責めている気がする、評価されるだけで呼吸が苦しくなる――それは大げさではなく、過去の体験が現在の状況を“再解釈”してしまうときに起こり得る反応です。

この局面で起こりやすいのが「白黒思考」の強化です。曖昧な状況は不安を増やすため、「安全か危険か」「勝ちか負けか」「味方か敵か」の二択で判断したくなる。すると、少しでも不安が出た時点で「もう無理」に傾きやすくなります。
白黒思考の文脈はここへ: https://trauma-free.com/black-and-white-thinking-trauma/

身体症状も出やすくなります。動悸、息苦しさ、パニック、過呼吸に近い状態。本人の感覚では「体が勝手に反応する」。この時、説得や根性論は逆効果になりやすい。
関連導線:


人との関わりが怖い理由:過去のトラウマが生む対人不安とは?

人との関わりが怖い人は、「人が嫌い」なのではなく、「人が怖くなる経験」を持っていることが多いです。拒絶、嘲笑、裏切り、支配、過干渉――その記憶が残っていると、新しい関係でも無意識に危険を予測し、警戒が先に立ちます。その結果、交流の場にいるだけで疲れ、家に戻ると動けなくなる。

引きこもりは、そうした状態から一時的に本人を守ります。刺激を遮断し、要求から離れ、回復の時間を作る。これは原文の通り「自然な反応」です。
ただし、そこに留まり続けると、生活リズムが崩れ、体力が落ち、外出がさらに難しくなることがあります。夜型、食事の乱れ、睡眠の質の低下――こうした変化は本人を責める材料ではなく、回復設計の対象です。

また、「ぼーっとする時間」は回復に必要な時期もありますが、長期化すると自己実現が遠のき、無力感が増える場合もあります。この“動けなさ”が神経系の問題として起きている場合、先延ばしの理解が役立ちます: https://trauma-free.com/procrastination-nervous-system/


引きこもり支援のポイントと長期的な視点

支援の核心は、急激な変化を求めないことです。本人が「外へ出られない」時、心身はすでに限界を超えていることが多い。ここで「早く戻れ」「甘えるな」と圧をかけると、防衛反応は強まり、回復は遠のきます。

まず整えるのは“気合い”ではなく“負荷”

  • 生活の最小単位(睡眠・食事・清潔・短い活動)を維持する
  • 1日の刺激量を減らす(情報・連絡・人付き合いを絞る)
  • 安心できる人との接点を、短く・軽く保つ(長文や説教は避ける)

共感の姿勢:本人の「怖さ」を否定しない

原文の通り、背景を理解し共感する姿勢が不可欠です。
「怖がるな」ではなく、「何が怖いのか」「どこで負荷が跳ね上がるのか」を一緒に見立てます。怖さを言語化できるほど、本人の中で“得体の知れない恐怖”が少しずつ輪郭を持ちます。

長期視点:回復は一直線ではない

一時的に外に出られるようになっても、また戻ることがあります。これは失敗ではなく、神経系が安全域を探っている過程です。
大切なのは「戻らない」ではなく、「戻っても立て直せる」設計です。

専門資源:孤立をほどくための“外部の手”

現代は支援資源が増えています。カウンセリング、支援団体、オンラインのリソース。本人も家族も孤立しない導線を持つことが重要です。

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【執筆者 / 監修者】

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)

【保有資格】

  • 公認心理師(国家資格)
  • 臨床心理学修士(甲子園大学大学院)

【臨床経験】

  • カウンセリング歴:10年/臨床経験:10年
  • 児童養護施設でのボランティア
  • 情緒障害児短期治療施設での生活支援
  • 精神科クリニック・医療機関での心理検査および治療介入
  • 複雑性トラウマ、解離、PTSD、愛着障害、発達障害との併存症の臨床
  • 家族システム・対人関係・境界線の問題の心理支援
  • 身体症状(フリーズ・過覚醒・離人感・身体化)の心理介入

【専門領域】

  • 複雑性トラウマのメカニズム
  • 解離と自律神経・身体反応
  • 愛着スタイルと対人パターン
  • 慢性ストレスによる脳・心身反応
  • トラウマ後のセルフケアと回復過程
  • 境界線と心理的支配の構造
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過緊張や生きづらさは、あなたのせいではなく、育った環境や親子関係の中で身についた生存の反応として残ることがあります。
本書では身体と神経系の視点に加えて、感情・自己否定・人間関係のしんどさまで含めて、専門用語をできるだけ使わずに整理し、安心を取り戻す22のレッスンとしてまとめました。必要な方に届けば嬉しいです。