精神分析的療法とは分かりやすく解説

精神分析的療法

相手に腹が立っていたはずなのに、話し始めると「私が気にしすぎたんです」と謝ってしまう。別れたあとで、自分が謝る必要のない話だったと気づき、悔しさが込み上げてくる。次こそ気持ちを伝えようと思っても、似た場面になると、また同じ言葉を口にしている。

こうした繰り返しには、本人がまだ十分に気づいていない恐れや願い、人との関係を保つために身につけた振る舞いが関わっていることがあります。精神分析的療法は、そのつながりを対話の中で確かめ、自分の感情や対人関係を理解していく心理療法です。

面接で扱うのは、過去の記憶だけでなく、最近の出来事、ふと浮かんだ考え、夢、話している最中のためらい、治療者に向けられる気持ちなどです。自分の内側で起きていることに言葉が生まれると、それまで自動的に繰り返していた反応にも、少しずつ選び直す余地が生まれます。

精神分析と精神分析的心理療法の違い

精神分析は、フロイトが発展させた無意識の理論と、その理論に基づく治療方法から始まりました。フロイトは、本人が自覚している理由だけでは説明しにくい感情や行動に目を向け、自由連想、夢の分析、転移などを通して、心の葛藤を理解しようとしました。

その後、精神分析にはさまざまな理論や実践が生まれました。フロイトと交流したユングは分析心理学を展開し、ラカンは言語などの観点から精神分析を捉え直しました。現在も、心の内側の葛藤、重要な他者との関係、言葉になる前の体験など、どこに重点を置くかによって多様な立場があります。

治療の形式にも幅があります。古典的な精神分析では、相談者がカウチに横たわり、分析家が視界に入りにくい位置に座って、週に複数回の面接を行う形がよく知られています。相手の表情を気にせずに話しやすくなることが、その設定の意味の一つです。

一方、精神分析的心理療法、あるいは精神力動的心理療法では、向かい合って座り、比較的少ない頻度で面接を行いながら、現在の生活上の問題を扱うことも一般的です。設定や頻度は、相談内容と本人の状態、生活上の事情を踏まえて検討します。

カウチで横になると落ち着く方もいれば、治療者の姿が見えないことで不安が増す方もいます。目を閉じるかどうかも含め、自分の感覚を伝え、話しやすい姿勢や距離を相談することが、治療を進めるうえで大切です。

無意識は、繰り返す人間関係の中に表れる

無意識について考えるときは、日常の小さな食い違いが手がかりになります。頼りたいのに、助けを申し出られると断ってしまう。相手を大切に思っているのに、関係が深まるほど欠点が気になり、距離を取りたくなる。頭で考えていることと、その場で出てくる反応が一致しないことがあります。

たとえば、誰かに頼るたびに見返りを求められてきたなら、親切にされても、まず代償が気になるかもしれません。自分では「一人のほうが気楽だから」と理解していても、その奥には、人に負担をかける怖さや、相手に借りをつくる不安が重なっている場合があります。

フロイトは「想起、反復、徹底操作」で、過去の経験が思い出として語られる代わりに、現在の行動や治療者との関係の中で繰り返されることに注目しました。 この視点は、本人が理由を説明できるかどうかとともに、実際の関係で何が起きているのかを見る助けになります。

フロイトは、夢や言い間違いといった現象にも、本人が気づいていない心の働きを見いだそうとしました。面接では、一つの発言に加え、どの相手に、どの場面で、どのような反応が出るのかを具体的に確かめます。相手の言葉をどう受け止め、何を予想し、その結果として何をしたのか。その流れが見えてくると、自分を一つの性格評価で説明していたところに、別の理解が生まれます。

無意識とは何か――フロイトの精神分析と日常の人間関係では、本人が気づきにくい心の働きを、さらに詳しく扱っています。また、過去の傷つきと現在の繰り返しの関係については、PTSDと外傷の再演も関連するテーマです。

自由連想では、話のつながりと、話せなくなる瞬間を聴く

自由連想は、そのとき心に浮かんだことを、できる範囲で言葉にしていく方法です。最近の出来事から昔の記憶へ話が移ることもあれば、何気ない言葉をきっかけに、思いがけない感情が浮かぶこともあります。次々に浮かぶ考えや感情へ注意を向ける面は、瞑想にも重ねられるでしょう。精神分析的な面接では、それを治療者へ語り、二人の関係の中で考えていくことにも意味があります。

たとえば、仕事の失敗について説明していたのに、途中から「こんな話をして、先生は退屈しているかもしれない」と気になってくる。その気がかりを話してみると、自分が困っているときにも、相手を満足させることに注意が向いていたと気づくかもしれません。出来事の説明と、話している今の体験が、同じ面接の中でつながっていきます。

一方で、自由に話そうとすると、かえって何も浮かばなくなる場合もあります。頭の中で何度も言葉を選び、話し始める前に「これは大したことではない」「こんな話は失礼だ」と取り下げてしまう。沈黙の間にも、そうした動きが起こっていることがあります。

治療者は、話の内容とともに、ためらい、話題の変わり方、言いかけてやめた言葉にも注意を向けます。ただ、その意味は本人と確かめる必要があります。沈黙の理由が、恐れなのか、疲労なのか、考えをまとめる時間が必要なのかによって、望ましい応答は変わるからです。

自分の言葉を吟味しながら話せる関係が育つと、これまで口に出す前に消していた不満や願いも、少しずつ扱えるようになります。具体的な方法については、イメージ療法・自由連想法のやり方と効果でも紹介しています。

夢・詩・物語が、まだ説明できない感情を伝える

夢は、起きているときには整理しにくい気持ちを考える手がかりになることがあります。フロイトは夢を、無意識の願望と関わるものとして捉え、夢を見た本人の連想を重視しました。

たとえば、電車に乗ろうとしても荷物が増え続け、どうしても間に合わない夢を見たとします。その夢について話すうちに、仕事の責任、家族の期待、置いていくことへの罪悪感が思い浮かぶかもしれません。同じ夢でも、別の人には、新しい生活への期待や、準備が整わない不安が結びつくでしょう。面接では、その人が何を感じ、何を思い出すかを確かめていきます。

夢だけでなく、詩、物語、絵、比喩にも、気持ちを表す働きがあります。「悲しい」と言うより、「誰も来ない部屋で待っている感じ」と話したときに、自分の孤独が初めてはっきりすることがあります。その表現には、待ち続ける疲れや、誰かに来てほしい願いまで含まれているのかもしれません。

オグデンは、治療者に生じるレヴェリー――ふと浮かぶ思いやイメージ――や比喩を、分析の関係で起きていることを理解するためにどう用いるかを論じました。そこから臨床上大切になるのは、治療者が感じたことも仮説として扱い、本人の言葉や反応と照らし合わせる姿勢です。

比喩が本人の体験によく合うと、それまで漠然としていた苦しさを、二人で考えられるようになります。言葉が見つかるまでに時間がかかる場合には、その時間を保ちながら、表現できるところから進めていきます。

治療者との関係に、いつもの怖さや期待が現れる

精神分析的療法では、治療者に対して抱く気持ちも重要な意味を持ちます。過去の大切な相手との関係で育った期待や恐れが、現在の治療者にも向けられる現象を、転移と呼びます。

たとえば、治療者が少し黙っただけで、見放されたように感じる。理解してもらえた面接のあとほど、次は失望させるかもしれないと不安になる。助けてほしい気持ちが強まると同時に、頼ってしまう自分への嫌悪が湧く。こうした体験には、その人が親密な関係で何を予想してきたのかが表れる場合があります。

治療者への信頼や好意は、話しにくいことを話す支えになります。ロイワルドは、精神分析の治療作用を考える際に、患者と分析家のあいだの対象関係、つまり両者の関係そのものを重視しました。自分の気持ちを受け止められ、考えを共有できた経験は、人との関わり方を見直すきっかけになります。

一方で、治療者に好かれていると感じる間だけ調子がよくなる、面接でよい評価を得ようとして生活上の困難を隠す、といったことも起こり得ます。いわゆる転移性治癒は、治療者への期待や感情によって症状が一時的に軽くなることを指す場合があり、その後の持続的な変化も確かめる必要があります。

治療者の前でも、自分の戸惑いや不満を考えられること。理解された感覚を、面接の外でも自分を支える力として使えること。そのような変化を、実際の生活と照らし合わせて見ていきます。

他者の態度や価値観を取り入れる心の働きについては、精神分析の「同一化」と、人との関係で身につく振る舞いでも説明しています。

トラウマに触れるときは、生活を保てる深さを確かめる

つらい経験について話したい気持ちがあっても、話そうとすると身体が固まり、言葉が出なくなることがあります。詳しく尋ねられるほど頭が働かなくなったり、面接が終わってから強い疲労や不安が出たりする場合もあります。

こうしたときには、その人が話を続けられる状態かどうかを確かめることが重要です。治療者の姿勢、声の大きさ、部屋の閉じられた感じ、横たわる姿勢など、面接の設定そのものが不安に関わっている可能性もあります。座る位置を調整する、話題を区切る、周囲を見渡して今いる場所を確認するといった工夫も、本人と相談して行います。

精神分析では、話題を避けたり、治療を進めることにためらいが生じたりする心の動きを「抵抗」という概念で考えてきました。その理解には、何を怖がり、どのように自分を保とうとしているのかを知る意味があります。現在の負担に目を向けることで、扱える内容と、もう少し時間が必要な内容が見えてきます。

過去に触れる際には、出来事と、それについて抱いている感情や評価を分けて考えることも大切です。当時の自分は何を感じていたのか。言いたかったこと、必要としていた助けは何だったのか。今の自分は、その経験をどのように受け止めているのか。覚えていること、現在感じていること、治療者が考えた仮説を区別しながら、理解を深めていきます。

夢や連想、物語は、本人の体験を理解する手がかりとして扱います。そこから過去の出来事を断定することには慎重である必要があります。過去との関わり方が変わっていく過程でも、睡眠、仕事、家事、人との関係など、現在の生活を支えることを大切にします。

解釈への違和感や反発も、一緒に確かめる

治療者から、自分では気づかなかった見方を示され、思い当たることが増える場合があります。それまで別々に感じていた出来事がつながり、自分の行動に理由が見えてくる。そのような理解は、自分を責める言葉を減らす助けになることがあります。

同時に、治療者の解釈に違和感を覚えることもあります。「それは私の感じ方とは違う」「その説明では、大切なことが抜けている」と思う。その反応は、面接の中で共有する必要があります。

たとえば、相手から実際に侮辱された経験を話しているのに、治療者が本人の過去の問題だけに結びつけてしまえば、現在受けている傷つきが十分に扱われなくなります。本人の怒りや不信には、治療者の応答が関わっている可能性もあるのです。

面接では、治療者の見方がどの部分で合い、どこでずれているのかを確かめます。本人が言い直し、治療者も理解を修正する。そのやりとりを通して、相手と意見が違っていても考え続けられる経験が生まれます。

自分の知らなかった気持ちに触れることには、戸惑いや怖さが伴います。そこには、怒りや嫉妬、頼りたい気持ち、認めてほしい願いも含まれるでしょう。それらを言葉にして考える時間は、自分の内面を、これまでより幅広く受け止めることにつながります。

治療期間と費用を考え、取り組む目標を共有する

精神分析的な治療に時間が必要となる理由の一つは、理解したことを日常の関係の中で使えるようになるまでに、繰り返し確かめる過程があるためです。自分が相手に合わせる理由を理解しても、実際に意見を伝えようとすると、以前と同じ怖さが出てくることがあります。その場面を面接に持ち帰り、どこで難しくなったのかを一緒に考えていきます。

ただし、治療の形や期間には幅があります。特定の問題に焦点を当てる比較的短期の精神力動的心理療法もあれば、幅広い対人関係や自己理解を長期にわたって扱う治療もあります。相談者が望んでいることと、提案される方法が合っているかを、最初に話し合う必要があります。

精神分析には、理論や解釈をどのように検証するか、治療にかかる時間や費用をどう評価するかといった課題があります。臨床で実感される変化とともに、研究によって、どのような問題にどの方法が役立つかを確かめることが重要です。

2023年のライヒゼンリングらによる包括的レビューでは、うつ病、不安症、パーソナリティ障害、身体症状症などについて、精神力動的心理療法を支持する研究結果が整理されています。これは、さまざまな精神力動的治療の研究をまとめた知見です。個々の相談室の方法や、すべての症状に同じ効果を保証するものとしては扱えません。

治療を検討する際には、次の点を確認しておくと、継続について考えやすくなります。

  • どの困りごとを優先し、どのような変化を目指すのか。
  • 面接の頻度と料金、時間や費用の負担をどう見積もるのか。
  • 経過をいつ、どのように振り返り、方法を見直すのか。

こころのえ相談室では、トラウマに関する相談に、精神分析的な理解も用いています。現在の状態と相談の目的を共有し、生活上の負担も踏まえながら、取り組む内容や進め方を検討します。

気づいたことが、実際の関わり方を変えていく

面接を重ねる中で、それまで一つの気持ちだと思っていたものに、いくつかの感情が重なっていると気づくことがあります。相手に腹が立つ一方で、大切にしたい気持ちもある。助けてもらった感謝と、傷つけられた悲しみが同時にある。相反する気持ちを自分の中に認められると、関係の見え方にも幅が生まれます。

その変化は、日常の言葉にも表れます。たとえば、いつも謝って終えていた場面で、「その言い方はつらかった」と一言伝えられる。相手に不満を持ったあとも、すぐに自分を責めたり、関係を終わらせたりする前に、何が起きたのかを考えられるようになる場合があります。

精神分析でいう「統合」は、こうした変化を理解するうえでも大切な考え方です。これまで受け止めにくかった感情や経験を、自分の一部として考え、現在の生活に結びつけていく。人を求める気持ちも、一人でいたい気持ちも、自分の中に置いて考えられることが、その人に合う選択を支えます。

気づきが増える時期には、かえって迷いが深まることもあります。これまで当然だと思っていた役割や価値観を問い直すためです。その際には、守りたい関係や大切にしてきた力も確かめながら、自分の生活をどう続けていくかを考えます。

精神分析的療法は、自分の言葉や感情、人との関係に繰り返し耳を傾ける営みです。理解が深まることで、これまで理由もわからず続けていた反応に気づき、自分の気持ちを含めて行動を選べるようになる。その変化を、面接と日常生活の両方で育てていきます。

心理療法やトラウマ治療の全体像については、心理療法とは何か|トラウマ治療・カウンセリング・身体アプローチを統合的に解説をご覧ください。

参考文献

  1. Freud, S.(1914). Remembering, repeating and working-through(Further recommendations on the technique of psycho-analysis II). In The Standard Edition of the Complete Psychological Works of Sigmund Freud, Vol. 12(pp. 145–156). Hogarth Press. 論文公開版(PDF)
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  4. Leichsenring, F., Abbass, A., Heim, N., Keefe, J. R., Kisely, S., Luyten, P., Rabung, S., & Steinert, C.(2023). The status of psychodynamic psychotherapy as an empirically supported treatment for common mental disorders—An umbrella review based on updated criteria. World Psychiatry, 22(2), 286–304. https://doi.org/10.1002/wps.21104
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井上 陽平

井上陽平(公認心理師・臨床心理学修士)。
トラウマ・解離・PTSD・愛着障害を専門とする心理カウンセラー。
児童養護施設、情緒障害児施設、精神科クリニックでの臨床経験を積み、
心身反応(フリーズ・過覚醒・離人感)への介入や、
複雑性トラウマ、対人関係、境界線の問題に重点的に取り組む。

研究テーマは「複雑性トラウマの身体反応」「解離と自己構造」「愛着スタイル」「虐待と対人関係のパターン」。現在は「こころのえ相談室」にてトラウマ専門のカウンセリングを提供。書籍の企画・執筆に関するご依頼も承っております。

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